▼page.6 「希海ちゃんおかえりー」 「あー店ん中はやっぱ涼しい。天国だ」 「なんか発言がオッサンくさいな」 「岸尾うっさい」 希海は服を扇ぎながら頼を睨む。 暑いのが殊のほか苦手な希海は、今まで無事二学期から通う事になった水無瀬学園まで書類を提出したり、制服の採寸をしに行っていた。 前はオーナーに車で連れて行ってもらったが、今日はこれから通学ルートを確認するために電車を使って一人でだ。 「すごいねぇ、頼くんも侑莉ちゃんも全員水無瀬の生徒だね」 「私は卒業生ですけど。でもここからだと、かなり遠いから大変じゃない?」 「そんな事ないよ。電車で十分もかからないし」 「……あれ?」 さっき電車に乗って帰ってきたばかりの希海が記憶を辿ってみても、そんなに距離はなかったように思う。 実は侑莉が水無瀬第二に行った理由は家から近いという理由で、それこそ徒歩で通えるほどに近かった。 その家から飛び出してこの町に来る時に、電車で一時間掛かったはずだ。 「もしかしてさ、侑莉ちゃんグルっと遠回りして来たんだ?」 「そのようです……」 今の今までその事実に気付きもしなかった。 頼にケラケラと笑われながら、すぐ坂の上にある水無瀬第一に何度か来たことがあったくせにどうして分からなかったんだと、尤もな意見を言われてしまっては返す言葉もない。 だが言い訳をするとしたら、学園祭などで来たときはずっと車で送り迎えをしてもらっていたから、掛かる時間など気に留めていなかったのだ。 侑莉は方向音痴でもあるらしい、と頼に事実を知られてしまい、またもや年上としての威厳が失われてしまったと嘆く。 それを三つも年下の希海に慰められるのだから、そんなもの初めから存在していないとも言えた。 スーパーに寄ってからマンションに帰ると、凌が既に帰宅済みだった。 「おかえり」 「ただいま……です。香坂さん早いんですね」 「今日はな。まぁこれからもそんな遅くなる事もない」 凌はテレビを消して荷物を片付けている侑莉の方へと行った。 テーブルに置かれているスーパーの袋の横に何枚かの小さな紙切れを見つけて取り上げてみる。 「なんじゃこら」 それらは名刺で、全部違う男の名前が書かれていた。 「ああ。バイト中にお客さんにもらったんです」 「へぇ」 パラパラと捲って一通り目を通すと興味を失くしたのか、名刺達をゴミ箱に投げ捨てた。 冷蔵庫に食材を入れながら、目の端で凌の動作を捉えた侑莉はギョッとして向き直る。 「え、今名刺……」 「は? お前連絡すんのか?」 「しません、けど」 「だったら捨てても問題ないだろ」 凌の言う通り、使い道はないから捨てても困りはしない。 とはいえ、もらってしまったものをこんなに簡単にゴミ箱行きにしてしまうのは気が引けた。 前 | 次 戻 |