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 いつだって文句を言いつつ自分の味方になってくれる。
 侑莉は立ち上がって巧の側までいくと、そっと抱きしめた。

「ありがとう」
「夏休みが終わるまでだからな」
「うん」

 侑莉が巧から離れるタイミングを見計らったように凌が立ち上がって部屋から出て行こうとした。

「ちょっとアンタに話がある」

 侑莉は「先に出てろ」と言われ、素直にそれに従った。
 二人の会話がちゃんと成立しているのか少し気になって、聞き耳を立ててみてもボソボソとした声さえも漏れてこない。

 まさか巧が「侑莉の事をよろしく」なんて言うとも思えないし、一体何を話しているんだろう。
 勝気で言いたい事を直球で発言する巧が凌の機嫌を損ねてなければいいのだけれど。

 そういえば、こういう所は二人とも似ていなくも無い。
 巧の場合は笑ってかわせるのは慣れと、弟だという事が手伝ってか。

 なら凌に対する苦手意識は彼の言動よりも年上だからという理由が大きいかもしれない。

 今まであまり自分よりも年上の人と接する機会が多くなかった侑莉に、その理由はしっくりきた。

「まぁ見た目の問題もありそうだけど……」

 巧に聞かれたらどやされそうだな、と笑いを零していると凌が出てきた。

「一人でニヤニヤして気持ち悪いな」
「ええ!? いえ、そうでしょうね……。で、巧はなんて?」
「無理難題押し付けられた」

 どう考えても自分に関する何かだろう。
 「なんて言われたんですか?」と尋ねても凌は答えなかった。
 面倒くさい事とか、どうやってやるのかも分からんし無理、という曖昧な言葉でしか返って来ない。
 最終的には「やる気ないから気にするな」と言われて侑莉は口を噤んだ。

 そんな事言わないでやってくださいよって言えない弱いお姉ちゃんでごめん、と心の中で巧に謝りながら凌の後をついて歩く。

「あ?」
「ぶっ」

 突然、凌が立ち止まったせいで小走りだった侑莉はそのまま背中におでこをぶつけた。
 凌は気にせずジーンズの後ろポケットを探って携帯電話を取り出した。

「……今マンションに瑞貴が待ち伏せしてるらしいけど、帰るか? 俺は会う気ないけど」
「じゃ、じゃあ香坂さんに任せます」
「なら放置」

 返信もせずに凌はまた携帯電話をポケットにしまった。
 しばらく何の反応も示さなければ諦めて帰る事を知っているからだ。
 その時にはまた抗議の電話でも来るだろうが、それだって悪態で返せば済む。

 彼女の存在をすっかりと忘れ去っていた侑莉は、凌の素っ気無い態度にホッと息を吐いた。
 会いたくないと言っては相手に失礼だが、できればそうしたい。

 実際には恋愛に発展しそうな要素は皆無な同居生活だけれど、相手にとって突然現れて凌の家に転がり込んだ侑莉は面白くない存在に違いない。

 瑞貴という人のためには巧と一緒に帰った方が良かった。そうしなかった事を申し訳なく思うが、この状況は侑莉にとって挑戦なのだ。

 父親の影響の届かないところで自分がどこまで出来るのか。
 夏休みが終わるまで。たったこれだけの時間を自由に過ごしたい。

 だからもう少しの間、本来あなたがいるはずの場所を貸して下さい。





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