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 この学校はホント変な奴多いよなぁ。
 凌は恐々とする侑莉の隣で巧と佐原をぼんやりと眺めていた。

「改めて聞くと居候ってか家政婦だな」

 侑莉が凌のマンションでの暮らしぶりを話し終えての、凌の第一声だ。
 まるで他人事のような言い回しに巧は顔を歪めた。この男の言動は一々癇に障る。

「お前ら一緒に住んでるって言っても殆んど生活時間合ってないじゃないか」

 話によれば今日を入れても数回しか顔を合わせていない。
 侑莉の身の安全を考えればその方がいいのだが、気がかりな事もある。

 言われるまで気にしていなかったと凌と侑莉は顔を見合わせた。
 変な所で意見の一致する二人だ。

「この男のマンションにいても侑莉は一人って事だな」
「うん、そうなるかな」
「親父だって反省してると思うし、侑莉だってさすがにもう怒ってないんだろ?」

 これ以上、凌のマンションに置いておくのは危険だ。
 凌は関係なく、今はまだ大丈夫でも侑莉は遠からず限界が来る。一人にしてはおけない。

「うん……、怒ってはないけど」
「だったら家帰るぞ」
「え?」
「見ず知らずの人間の家にまだいるつもりかよ」

 見ず知らずというには同居している日数が経ちすぎているが、この二人にはピッタリと当てはまる距離感だ。

「家に戻りたくないんだったら美保でも、皐月さんの家にでも行けばいいだろ。親父には言っておいてやるから」
「あ、出て行くならちゃんと荷物片付けてからにしろよ」

 凌は見るともなしに近くにあった書類をパラパラとめくりながら、どうでもいい事のように言った。
 当事者のはずなのに、一度もちゃんと会話の中に入ってこようとしない。

「香坂さん、私がもう少し居候させてもらったら迷惑でしょうか?」
「どっちかっていうと」

 歯に衣着せぬ凌の言動は毎度の事で、侑莉は力なく笑った。

「でも飯が自動で出てくるのはいいな。美味いし」

 持っていた書類をポイと放って侑莉を見た。
 その目は侑莉の苦手な強さを持っていて、緊張に体を強張らせた。

「さっきも言ったけど、ほとんど顔合わさないし、俺がいない間は好きにしてりゃいい。まだいたいんなら勝手にしろ」

 射抜くような目とは裏腹に、言われた内容は侑莉にとって嬉しいものだった。

「い、いいんですか?」
「話聞いてなかったのか」
「いえ、あの、ありがとうございます!」

 手を叩いて喜ぶ侑莉と、苦い顔をする巧。
 信じられなかった。凌は侑莉から最も縁遠い部類の人間だ。話していてもたまに緊張しているのが見て取れた。

 怖いのだと思う。なのに、なんで一緒にいようとするんだ。
 他にも行くところなんていっぱいあったはずだ。どうして選りにも選って。

 こんなにも侑莉の考えている事が分からなくなったのは初めてだ。
 溜め息を吐くと、心配そうに巧の様子を窺ってくる姉と目が合った。

「我が侭言ってごめんね、巧。ちゃんと帰るから。もう少しだけ……」
「いいよ、言い出したら聞かないのはいつもだろ。親父にも黙っててやる」

 父親に知れたら警察沙汰になりかねない。
 むくれて、不満を露わにしながらも折れてくれた巧は、本当に出来た弟だ。



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