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「この炎天下で元気だなぁ、あのカップル。熱中症なりますよ」
「お前こそ暑さのせいで頭湧いたみたいだな。なんで中庭にカップルがいるんだよ」

 生徒会室の窓から外を眺めているのは、水無瀬学園生徒会の書記の佐原(さはら)。
 佐原を必要以上に冷たくあしらったのは生徒会長の宮西 巧(みやにし たくみ)といって侑莉の弟だ。

 巧の髪は茶色く染めて背中に届くほど長い侑莉とは違って黒く短い。
 だが男にしては小柄で、体つきもほっそりとしている。顔も侑莉にそっくりで女の子だと言っても通用するだろう。

 その外見と強い口調とのギャップに大抵の人は驚く。

「ひでぇ、ツンデレのデレが無さ過ぎるー!」
「あってたまるか」
「そんなぁ……、ていうかホントにいるんですって。見てくださいよ」
「お前がそこから飛び降りたらな」
「えー……あ、分かった! 先輩わざとツンツンしてオレの気を引こうとしてるんでしょ!」

 突然、巧が持っていたシャーペンがバキリと音を立てて折れた。
 佐原はヤバいと思ったが既に遅い。

 ゆっくり立ち上がった巧の眼光は鋭く佐原を睨みつける。怒鳴りつけるわけでなく黙ったままジッと。

「……一人で飛び降りるのが難しいなら手伝ってやる」
「すみません、調子こいてすんません! だから、うぎゃああーっ!」

 窓を開けると冷房で冷えた室内に熱い外気が入ってきたが、気にせず佐原の頭を外に押し出す。

「うわ、マジでなんか人いるし。思いっ切り不法侵入じゃねぇか」
「だーかーらーいるって言ったのにーっ!」

 佐原がジタバタともがきながら大きな声を出すと、下にまで聞こえたらしく中庭にいる男女がパッと顔を上げた。

「……侑莉?」

 三階からだと随分と小さくしか見えないが、姉を間違えたりはしない。
 侑莉の方もすぐに巧だと気づいたらしく、かなり焦っている。
 隣にいる男はニヤニヤと笑って巧を見上げてきて、その顔が無性に腹立たしかった。

「侑莉っ! お前こんな所で何やってんだ。ここまで上がって来い!」

 捲くし立てると侑莉は男の方を窺うように見て話しかけた。

 それに舌打ちをして、佐原のシャツの襟首を掴んで後ろに引き剥がすと勢いよく窓を閉めた。

「あん人達って先輩の知り合いっスか?」
「男は知らん」

 実際には巧は凌の事を知っていた。というよりも見た事があった。
 知り合いというわけではないから嘘をついているとも言えないが。

「えっらいご立腹だったなぁ弟」
「………」

 何故か楽しそうな凌を見て侑莉はため息を吐き出した。
 予想以上に怒っていた巧。二週間以上も家を勝手に空けたのだから当然だ。

 こればかりは仕方ないと腹をくくった。



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