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 教室の半分くらいの広さの生徒会室の中は煩雑だった。

 机の上は空いたスペースが無いくらいに物が溢れていて、段ボールや資材も適当に積まれ、ホワイトボードには何やらびっしりと書き込まれている。

 どれだけこの文化祭のために忙しい日々を送っていたのかが知れた。

 皐月達と別れた侑莉は、ぐるりと校内を回った。もちろん千春と一緒に。
 大まかに見終えここへ来た。
 
「どうしたの? 何か困った事でもあった?」

 説明もせずに鍵を取り出し、生徒会室に連れて行ってくれと言えば困惑もするだろう。
 人に聞かれたくない話があると解らないはずが無い。
 
 解ったならば千春は絶対にこう聞くのだ。

「大丈夫?」

 心配そうに顔を覗き込んで来た千春に侑莉は頷いた。
 ああ本当に

「変わらないね」

 昔から千春はいつも泣き出しそうになると「大丈夫?」と侑莉に尋ねる。
 大丈夫だと答えても、それが本心でないと見破って、何も言わずに傍らにいてくれるのだ。

「春くんは相変わらず私に甘すぎる」
「ねぇ侑ちゃん……それが全部、下心からくるものだって知ってた?」

 侑莉が言葉を続ける前に千春は口を開いた。
 この状況で何を言われるのか想像はついている。
 彼女の表情が物語っているから。
 
 だから侑莉が結論を言ってしまう前に、伝えておかなければならない。
 
 事ある毎に侑莉は千春が優しいと言う。
 当然だった。そう見られるように振舞ってきただけだからだ。

 そうするのが一番手っ取り早かった。
 大丈夫かと問えば大丈夫だと答える彼女に、他人の前では弱さを一切見せないようにさせて、とことんまで追い詰めた所を甘言で付け入った。

 無理なんかしないで、俺がいるから。もっと頼って。
 尤もらしい台詞ばかりを吐いて。

「俺にだけたまに見せる泣きそうな顔が見たくて、辛いって言葉とか聞きたくて、そんな事のためにギリギリまで追い込んだりした。追い込んでおいていつだって心配するふりをして、優越感に浸ってたんだ。ずるくたって何だって良かった。他の奴に取られるくらいなら……」

 そのくせ、別れを切り出された時にはあっさり身を引いた。
 
 縋りたくても出来なかった。みっともないと思ったから。格好つけた。
 物分りのいいふりをした。

 馨に指摘された通りだ。

 侑莉の事だから、すぐに他の男に靡く事はないだろうとたかを括ったのもある。きっと自責の念にかられて、千春を忘れられないだろうと。

 だから頃合を見て、また近づけばいいと考えていた。それまでは大人しく幼馴染の位置にいようと。



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