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 何故そんな風に呼ばれたのかも、彼が誰なのかも知らない。
 どこかで会った事のある子だろうか。

 蜂蜜色の髪が特徴的な、あまり男臭さのない子だ。
 彼の容姿に引っかかりは覚えたものの、知り合いではなさそうだ。
 
 というかこの学校での顔見知りなど巧と千春くらいしかいない。
 
「ちょうど巧帰って来てるから呼んできますねー」
「侑莉、知り合い?」
「え、えー……んー?」

 こそっと皐月に耳打ちされたが、答えに詰まった。
 本当に誰なのか判らない。

 相手は侑莉を認識しているのにこちらは覚えていないというのは、もしかしなくてもかなり失礼な話だ。
 
 急いで記憶を巡らせてみるが上手くいかなかった。

 侑莉が思い出すよりさきに、また人混みを掻き分けて少年と巧が来た。

 すると野次馬達は今度は侑莉達を注目し始めて、どうやらこの子等が渦中の人だったらしい。

 「じゃあ僕は昼ご飯買いに行くね」と手を振って去っていった少年を見送って、侑莉は巧の袖を引っ張った。

「ね、あの子って家に遊びに来たりしてたっけ?」
「は? 緒方が? あいつ、侑莉が夏休みここに来たときに会ったって言ってたけど?」
「……あー! ああ、あの時の子かぁ!」

 そう言われればそうだったかもしれない。やたらと印象的な対面だったのだが、顔までは覚えていなかった。
 
 相手は巧と侑莉が瓜二つだったから忘れようが無かったのだろう。
 
 皐月達に馨との出会いを説明すると微妙な反応が返ってきた。
 「まあそんな事はいいとして、巧くん久しぶり」とあからさまに話を変えたくらいに。

「巧、たこ焼き!」

 弟の手に提げられているのを目敏く見つけた侑莉は手を出す。
 本人はその存在を忘れていたらしく「ああ」と姉に渡した。

「巧も料理出来るようになってたなんて……」

 家では湯を沸かす以外でキッチンに立つことなど無いものだから、全く想像がつかなかったが。

 知らない所で成長していくものなのね、と大袈裟すぎる感慨に耽りながら皐月達にも渡す。

「たこ焼き焼けても料理出来る事にはならないだろ。てか言っとくけどそれ焼いたの俺じゃないし」
「なんだ……巧が私のために作ってくれたのかと思ったのに」

 しゅんとする侑莉がフタを開けたのとほぼ同時に皐月と静矢も中身を確認して、そして同じようなリアクションを取った。

 何これ? と巧を見る。

「だから、俺が作ったんじゃないからな。さっきの奴。あいつが作ったのだからまともじゃないとは思ってたけど」

 世間一般で言うところのたこ焼きという概念を取っ払った、斬新と言えば聞こえのいい、それはそれは規格外の食べ物だった。



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