▼page.1 朝、ミラちゃんの家の玄関のドアを開けると真正面にディーノが立っていた。 無言で。無言でじっと立ってんの。ノックするでも声かけるでもなく。怖いよディーノ。 なんかよく分かんないけど圧力を感じるよ。 じとーっとした目で見下ろしてくる高身長の男の視線から外れようと、蟹歩きで横にずれてみてもディーノも顔を動かして視線がついてくる。 …………。 「なんか言ってよ!」 「おはようございます」 「はい、おはようございます! ごめんなさい!」 反射的に謝っちゃった! 何に対してか分かんないけど謝っちゃった! ディーノが怒ってる理由が皆目見当もつかない。どうしたの、低血圧なの朝に弱いの? 「ハル、あせすごい」 「言わないでホズミ!」 緊張で手汗がすごいから、繋いでるホズミには丸分り。なんだけど恥ずかしいから言わないでくれ。 ホズミは私を不思議そうに見て、それからディーノに目を移し。 「ディー、ハルがこわいって」 「それもっと言わないで!」 私の考えさえもホズミに丸分りだったらしい。私の思考回路は子供にすらスケスケなのか。スケルトンか。シースルーか。 あれ、どうしたんだろう、目から塩水が。 「ディー、泣かせた」 「むしろホズミのせいでしょう」 「敢えて言う、共犯であると!」 二人してお互いに罪をなすりつけるとは卑怯な。 ていうか、ホズミがディーノの事をディーって呼んでるんだって今日初めて知った。 いいなぁー、仲良くなった感じがして微笑ましいなぁ。 「で、ミラというあの女の子は?」 「ああ、ミラちゃんなら近所のおばちゃ、お姉さんがついててくれるから大丈夫だよ」 朝早くに近所の人が、ミラちゃんがまた家出してないか様子を見に来たのだ。 そしたら泣き腫らしてそれどころじゃないミラちゃんがいて、面倒見のいい彼女はアタイの出番じゃないかコンニャロ! と率先してミラちゃんの傍にいると名乗りをあげてくれた。 おせっかいと紙一重の面倒見のいい近所のおばちゃん。 親しみを込めて彼女の事を「おばさん」と言ったらおっそろしい目に遭いました。 何があったのか詳しくは言いませんが、彼女の事は今後一生「お姉さん」と呼ぶと誓いました。 話が逸れた。 とまぁミラちゃんはお姉さんに任せて、私は一旦屋敷に帰ろうというわけです。 「ソレスタさんはお屋敷にいる?」 「いますよ、昨日も俺が帰ったら優雅に侯爵と晩酌中でした」 「私、今ほどソレスタさんを偉大だと思った事ないわぁ。そんでディーノも参戦した?」 ディーノはにっこりと笑っただけで答えてくれなかった。というかその笑みが答えというか。 そうですか逃げましたか。まあそうだよね。私でも見なかった事にしてさっさと自室に閉じこもるわ。 侯爵とソレスタさんの会話ってどんなのだろう。全く想像つかない。 うーん、ソレスタさん二日酔いになんてなってないでしょうね、話するどころじゃないとかだったらどうしよう。 吐いたら楽になるのかな、だったら容赦なくリバースさせるけど。 前 | 次 戻 |