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 少女の名前はミラちゃんというらしい。全くの偶然なんだけどミケくんとなんだかセットみたいな感じだ。

 ミラちゃんはもうすぐ町の入口というところまで来ると急に足を止めた。
 今更抵抗するのかと思ったけどどうやらそうじゃないみたいだ。

「その子、町にまで連れてく気?」
「ホズミの事? そりゃ連れてくよ」

 当然でしょう。ホズミと繋いでいた手に力を込める。

「町の人に見られたら面倒だと思うけど。お姉さんがいたトコは違ったの?」

 言われた意味が分らなくてホズミを見た。耳がぴょこりと動く。
 ああ、そうか。私はまた忘れていた。以前ラヴィ様に指摘されていたの。

 ホズミが大事ならしまっておいて。人の目に触れないように。
 あれは何も王都だけでの話じゃない。この世界の人間と獣族の関係がこういうものなんだ。

 一度神殿で見た、ホズミに対する神官達のあの態度は、彼等が特殊なんじゃなくごくありきたりな反応だったんだろう。
 ルイーノ達が特別なんだ。

 そしてホズミ自身も人間にどう見られているのかきちんと理解しているようだ。
 自分勝手に人のいる所に行こうとはしないし、見知らぬ人が行きかう場所では言われる前に犬にも見える小狼の姿になっている。

「ホズミ」

 手を放して向き合った。羽織っていた上着のフードを目深に被らせる。

「ディーノ達が何処にいるか分かる?」

 ホズミは耳を動かして懸命に周囲の音を聞き取り、こくりと頷く。

「先にディーノの所に行ってて。人に会わないようにね」

 一人で行動させるのは心配だけど、このまま私と一緒に町を突っ切る方が危険だ。
 ホズミに悪意のある視線も言葉も受けてほしくない。

 ディーノとソレスタさんの所まで行けば、あの二人ならホズミを上手く匿ってくれるはず。
 ホズミはぎゅっと私の服の裾を掴んだ。

「何かあったら大きい声出して。すぐ来るから」
「……!」

 も、も、萌え死ぬ……!!
 うっかり惚れそうになってフルフル震える私からホズミは離れ、脇道の方へと走って行った。

 なんだか逃げられた気分。

「お姉さんが喋ってる言葉ってさ、何なんだろうね」

 ミラちゃんが顎に手を添えながら考え込んでいる。あなたはどこぞの高校生探偵ですか?
 ていうか日本語だよ。それ以外の言語は例え英語だろうと喋れませんから。

「狼の子と喋ってるのもお姉さんの言葉だけ分かるんだよね」

 あ、ああ! そっかそうだった。
 忘れてたけど人と獣族は言葉が通じないんだっけ。獣族同士も種族が違うと何言ってるのかさっぱり分かんないとか。

 ホズミはとても賢い子なので人間の言葉も喋れないけど理解はしているらしい。なのでルイーノ達とも不思議なコミュニケーションが取れてるんだ。

 要するにホズミはよく出来た子。

「……あれ、でもミケくんとミラちゃんって普通に喋ってたよね」
「アルベルト」
「いやもうそのネタいいよ!」

 そろそろ面倒臭いよ! しかも自分で考えた名前あっさり捨てたな。

「ミラ!」

 おばさんが一人ミラちゃんを見つけて駆け寄ってきた。

「あんたまた森になんか行って……、もうやめなっていつも言ってるでしょ」
「やめないよ。あの子がいるから」
「ミラ! あんたはあれとは違うのよ!?」

 いきなり険悪ムードになって来た。どきどきしながら見守る。
 お母さん……というよりも近所のおばちゃんって感じがするな。親しいけど家族特有の近さっていうのがない。

 まあ私が家族のなんたるかを語るのもおかしい気がするけど。

「違わないもん、何も違わない!」
「ミラ!」

 口を出していいのか分らないので黙って聞いている。あの子とかあれっていうのはミケくんの事だろうか。




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