page.5


 
 つ、疲れた……。笑顔で対応し続ける事がこんなに苦痛だったなんて。
 最初は遠巻きに見ていた皆さんがじわりじわりと私に近づいてきて、最後には次から次へと話しかけられた。
 丁寧に名乗られたけど誰一人として覚えてないよごめんなさい。
 やっぱりこの髪の色が気になるらしく、その話題が多かった気がする。これもやっぱり記憶に残ってないけど。
 
 人がはけた隙をついてバルコニーへ出た。に、逃げてないよ。ちょっと休憩するだけだよ!

 いつの間にか陽が落ちて真っ暗になっている。ひんやりした風が首元を撫でた。さ、さむ……。ストールを羽織ってるんだけど、薄いレースのだから風通しの良さったらない。ファッションは我慢。ここは私の女子力が試されている!
 
「こんな所におられたのですかユリスの花嫁様」

 背後からした声に舌打ちしそうになったのをなんとか堪え、私は仮面のように張り付けた笑顔で振り返った。

「少し暑くなったので身体を冷やそうか……と、え、は?」

 私の愛想笑いは最後まで続かなかった。

「の、わりには寒そうだがな」
「なんであんたがここにいんの!?」
「うるさい大きい声を出すな。人が来るだろうが」

 私が耐えた舌打ちを堂々としやがったプラチナブロンドの男が、半目で私を睨んだ。
 丁寧な口調は第一声だけのようで、すぐにいつも通りの喋り方に戻った。絶対さっきのは私を騙そうとして、だよね。この男は……。

「レイ、あんた今までどこにいたのよ」
「さぁ?」
「はーらーたーつーっ!」

 もうもう! 心配して損したわ。今事路頭に迷って飢え死にしそうになってんじゃないかとか、残飯漁る生活してんじゃないかとか色々妄そ……心配してたのに。

「お前今失礼な事考えてるだろ」
「いやいや、失礼度合ならレイの足元にも及ばない、いひゃいいひゃい!」

 いきなり頬を抓ってくんな! 事実じゃないか、図星だから余計に腹立ったんだろう。
 両手でレイの腕を掴んで無理やり剥がそうとしたら、余計引っ張られていたかった。思わず唸るとニヒルに笑われて。

 コイツはルイーノ属性だな……知ってたけど!

「取りあえず元気そうで良かったわ。魔力は足りてるようね」
「お陰様で、と言っておけばいいのか?」
「そこは疑問に思わず素直に言っておきなさいよ」

 私のあの羞恥心とかその他諸々の努力を少しは労(ねぎら)え。感謝しろ。役に立たなかったとか言いやがったらバルコニーから突き落とす。

「で、何しに来たの?」
「お前が一人前に着飾るみたいだから、笑ってやろうと思って見に来た」
「どっこまで性格悪いのよ!!」

 笑う事前提で来るな! せめて見てからの判断にしてよ、いやそうじゃない笑うなぁ!
 情報源は何処だよ……、ソレスタさんか?

「このパーティーの事はソレスタさんに聞いたの?」
「いいや? お前の事なら離れていても大体なら把握出来る」
「……はい?」

 何か今恐ろしい台詞を言いませんでした?

「召喚した者とされた者で、俺等は繋がっている。牢屋の中からでもお前の行動が丸分りで色々と楽だった」

 ええっと……、レイが投獄されていても外の様子を分かっているようだったけど、実際に筒抜けだったのは私の私生活のみだったって事!?

 じゃあ私がお城であれやそれをやってたのも、この人は全部知ってるって事!?
 ぎゃあああ、私のプライベートがあああ!!

「プ、プライバシーの侵害だ!」
「なんだそれは」
「レイがやったのはねぇ、本人の了解を得ずにGPSで行動を追跡しちゃってたようなもんなんだよ!? それもうストーカーの一歩手前だからね!?」
「お前の言葉はたまに理解出来ない。向こうの世界にしかない単語だろう」
「何冷静に分析してんのよ! 今私がレイが犯罪者になるのを防止するために親切に説明してあげてんでしょうがっ」

 筒抜けってどの程度のものなんだろう。まさか監視カメラの映像みたいに詳細がはっきり見えてたわけじゃないよね?

「ちなみに丸分りって、どの程度の?」
「寝てるとか、年甲斐もなく庭園を走り回ってるとか」

 レイの腕を叩く。

「着替えてるとか」

 胸を叩く。

「風呂入ってるとか」

 胸を拳で殴る。殴る! おまわりさあああんっ!! こいつです、こいつが変態なんですぅー!

 容赦なく拳を振り回す私の腕を難なく掴んだレイはそのまま自分の方へと引き寄せた。
 抱き込まれてすっぽりとレイの腕の中に入ったら、冷気が直接当たらなくなった。いい風よけだわ。

 このシチュエーションでそんな風にしか思えない自分にがっかりです。でも相手がレイだから仕方ないんだなこれが。

「で、わざわざこんな王宮の奥に忍び込んでまで見た私のドレス姿はどうでしたか」
「木偶にも衣装」
「またそのネタ! なんなのこの国ではそれが普通のことわざなの!? それともルイーノとあんたが似過ぎてんの!?」

 私がそんなにも役立たずだって事なのか!? 泣くぞいい加減! 私はウィルちゃんみたいに苛められて喜ぶ質(たち)じゃないのよ。

 普通に傷つくんだから。心に傷を持つ女、葛城悠です。どうぞよろしく。




|




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -