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 ルイーノが真性のドSだとすると、ウィルちゃんってドMだ。さっきこの二人の会話を聞いててちょっと思った。
 
「お忙しいとはいえ、代理でウィフルレッドを寄越すなんてディーノ様もどうかしてますよねぇ」
「え、オレのどこが不満!?」
「まぁ自覚がないなんてどこまでも残念な人……」
「何悲しそうな顔してんのルイーノちゃん!?」
「は? ちゃん付けで呼ぶ権利を貴方に与えた覚えはないんですけどぉ? 何様のつもりですかぁ」
「ダメなの!? まだお許しでないの!? オレ等知り合ってもうだいぶ経つよ、かれこれ数年来だよ!」
「歳月の問題ではないんですよねぇ」

 ……ルイーノ絶好調だ。すっごい楽しそうだ。言動もさる事ながらウィルちゃんを見る目がウジ虫を見るそれなんだけど分かる。ルイーノもんのすごい楽しそうだ。

「ちょっとホズミくん聞いてよー、ルイーノさんのオレに対する態度同じ男としてどう思う? ひどくね?」
「ヴゥ、ワウ!!」
「唸られた!」

 ホズミが唸った! 牙むき出しで威嚇してる。うわぁ初めて見た。野性味があってカッコいいよホズミ! 頭を撫でようと持って行ったらしいウィルちゃんの手をガブリと噛む。

「あらあらホズミったらやんちゃさん」
「やんちゃで済まされますか!? 血出てきたんですけど!」
「狂犬病には気を付けてね」
「びょ、病気!? もう既に噛まれたんですけど、防ぎようないんですけど! ていうかそういうの飼い主の責任では!?」

 いやそうなんだけど、ホズミが敵対心燃やすのってウィルちゃんくらいなんだよね。この人ならいいかなって。大丈夫なんじゃないかなって。もう既に頭の病気が手遅れな感じするしね。

「ウィルフレッド。もしこの後ホズミに噛まれた所が腫れあがったり発熱したりするようなら、あたしが診てあげるからここへ来てねぇ」
「ルイーノさん……!」

 騙されてる。騙されてるよウィルちゃん! 彼女の目を見てごらんよ。さっきまでと違ってキラッキラしてんじゃん、ウィルちゃんを患者もとい実験体として扱う気満々だよ。

 どんな薬打てばいいんだろう、アレを試そうか……とか今めっちゃ頭の中で考えてるに違いない。
 これで何事もなくウィルちゃんの傷が塞がろうもんなら、唾吐いて罵られるよ。
 
 ルイーノがウィルちゃんに表面だけでも優しい言葉を掛けた後にも先にもさっきのだけで。ついには邪魔だからさっさと行けよと部屋を追い出された。当然私も一緒に。ウィルちゃん恨むぞ。
 
 気に入った人ほど態度が冷たいルイーノの、ウィルちゃんに対するあの容赦ない物言いは、おや? と思うところがないわけじゃない。

 もしかしてこれは二人の間にロマンスの欠片が? マゾとサドでいい具合に惹かれてたりするのか?
 ウィルちゃんはどうなのか知らないけど、彼なら押せば押しただけ動きそうだよね。
 うんうん、私の中で今ベストカップルはこの二人です。付き合ってもないけど。

 というわけで、ウィルちゃんと二人で大広間へ向かっております。徒歩で。
 一言にお城と言ってもその広さは東京ドーム何個分? という敷地面積なので貴族の方々は皆さんお城の中でも馬車で移動したりするのですが、私が乗車拒否しました。

 間に合わないなら走るから! だから馬車に乗るのだけは! とウィルちゃんに頼み込んだ。
 
 いやいやその恰好で走らせられませんよ、オレが抱いて行きますよ!
 させるか、私に指一本でも触れてみろ、貴様ただじゃ済まさんぞ。
 エスコートできねぇ!
 
 とかいう、仲良しこよしな応酬を繰り返した後に私が勝利をもぎ取りました。
 ウィナー悠! いえあ!
 
 そんなテンションでいられたのも会場に着くまででした。
 中に入る時にご丁寧に「ユリスの花嫁様到着されました」とアナウンスされてしまい、会場中がしんと静まり返った。

 さっきまで音楽も掻き消えてしまいそうなほど皆さんお喋りに夢中だったのに!
 音楽団員はさすがというか、自分達の仕事を忘れるような事はなく只管美しい音色を奏で続けている。

 帰りたい。引けてしまった私に気付いてウィルちゃんが笑顔で手を差し出して来た。
 ぎこちなく頷いて手を乗せ、仕方なく歩き出す。ええいもうどうにでもなれ!
 
 私の一挙一動を息を呑むように見守る人々は徐々に道を開けて広間の奥へと促す。
 実は私とウィルちゃんは遅刻したんですよね。やっぱりちんたら歩いてたら開始時間に間に合わなかった。なので余計に目立つ。

 ウィルちゃんが一番に引き合せたのは当然ながらこのパーティーの主催者にして私をこんな目に遭わせた首謀者。

 もうさっきからずっと目が合ってんだけどね。ぎくしゃくしながら歩く私を見ながらすっごい笑うの我慢してるんだよあの人。

 広間の奥でグラス片手に黙って私を見守っているような佇まいだけど、本当は指差して爆笑したいのを我慢しているに違いない。若干頬が膨らんでる気がするもの。
 
 サイラス・アルキ・ヴァン・マナトリアス。あんまり長い名前なのでフルネーム覚えるのにどんだけかかったか。

 このマナトリア王国の現国王陛下様である彼の前で立ち止まると私は恭しく頭を下げた。しかし決して謙(へりくだ)るものではなく挨拶として。

 神の使いである私は相手が一国の王であっても敬ってはいけない。人を自分よりも上として見る事、そうだと誰かに思わせるような行為は決して行ってはいけない。
 神が生物の下に位置づけられるに等しい行為だからだ。
 
 それに、一国に肩入れするのもいけない。神は世界全体に等しくあらねばならない。
 私は今この国にお世話になっているけど、あくまでそれはもてなされ滞在しているにすぎず、恩義を感じる必要はない。そんな説明を以前受けた。



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