page.9



 お爺ちゃんはとても謙虚な人でした。とても大きな家でした。メイドさんも何人もいて至れり尽くせり。
 
 取り敢えずお風呂に入りましょうかとにっこり笑顔で言われ、中二さんだけでなく私やホズミも結構薄汚れている事に気付いた。

 他人様の家に汚いまま居座るわけにもいかないし、とてもありがたい申し出だったので、一も二もなく頷く。
 でもホズミと別々に入れられてしまったのがちょっとショック。私の手で洗ってあげたかったのに……。
 
 一番風呂をもらった私は上がってから、お爺ちゃんとお茶を飲みながらのんびりまったりお話をしていた。

 暫くして後続の中二さんとメイドに抱えられたホズミが戻ってきた。
 ちなみにホズミはお爺ちゃんに話し掛けられた時点で、というか術で町に出た瞬間に小狼の姿に変身していた。ウチの子は本当に賢い子!

「…………」
「なんだ」
「いえ」

 中二さんがなんだか別人のようで。息子が若い頃のですが、とお下がりの服を貰って着ている。白のシャツに黒のベストとズボン、茶革のブーツ。

 髪も濡れて気持ち悪いのか長い前髪を後ろに流しているから、顔が顕わになっている。
 やっぱり痩せすぎているけど、すっと整った綺麗な容姿だった。この世界の安定のイケメン率ね。

 歳若いメイドさんがほんのり頬を染めていらっしゃる。その気持ちよく分かるよ。私もこの人が人格破綻してるって知らなければ同じ反応をしていたよ。
 
 その後豪勢な晩餐も御馳走になり、残すは寝るだけとなった。

「ではごゆっくりとお休みください」

 人の良い笑顔でお爺ちゃんはパタリと扉を閉めた。ごゆっくりの部分をやたら強調して。そして閉じ込められた寝室には私と、中二さん。

 お爺ちゃん誤解ですうううう!! 違うから私達そういうんじゃないから!!
 部屋の隅でちょこんとしていたホズミも「邪魔しちゃいけないよ」とか言いながら連行されちゃったし。

 邪魔? ホズミが邪魔な事なんてありませんけど!? いやいやいや、中二さんとホズミをチェンジで、チェンジでお願いします!
 
 荒れ狂う私の内心を無視して中二さんがドカリとベッドに座った。おいちょっと待て、お前がそこを占領するのか、普通男はソファだろ。

 『お前がベッドを使え、俺はソファでいい』『そんな、ダメよ! 貴方の方が疲れてるんだから貴方がベッドで私がソファでいいの!』とかいう押し問答は鉄板だろう? これ一度はやっとくべきだろう!?
 この男にそんなものを求めたって無駄か。

「別にソファで寝るのはいいけど、掛布団は私にちょうだいよ」
「はぁ?」
「はぁ? じゃないわよ! 寒いじゃない、風邪ひいたらどうしてくれんの」
「アホかお前が使ったら俺が風邪ひくだろうが」

 男は乱暴に私の手を引くとベッドに引き入れた。思い切りダイブした私の身体にバサリと布団を掛ける。あべふ、とか変な声だしちゃった気がするけど、聞いてるのがコイツだけだから別にいい。

 更に身体を奥の方に押しやられて、あまつ男まで布団の中に入ってきた。

「ちょー待て待て待て! これは一体どういう事ですかコノヤロウ、事情を説明しろ!」
「ベッドも布団も一つしかないんだ我慢しろ。俺もしている」
「悪かったわね相手が私でーっ!」

 美人のねーちゃんじゃなくて悪うございましたね! 枕を引っ掴んで男の顔に押し当ててやった。

「うるさい嫁だな」
「あんたの嫁違う!」

 大体、私にはハルっていうれっきとした名前が……あれ? なんかこんな風な会話前にもしなかったっけ?

「取りあえず、お前はここだ」

 伸びてきた腕ががっしり私の身体を捕えるとそのまますっぽりと抱きすくめられた。
 ベッドの中で男に抱きしめられている。なんだこの状況、なんだこの状況!!

「あんたねぇ!?」
「黙れ、我慢していると言っただろうが。これでも長時間していれば力は吸収できる」
「……もしかして、まだ本調子じゃないの?」
「半分も満たない」

 あんだけベロチューかましといてまだ力が足りないとか言うのか。いや牢壊したり瞬間移動したりするから足りなくなったんじゃないの?

 ちゃんと考えて使ってよね。別に力搾取されても体調に問題はないんだけど、いちいち精神的ダメージが大きいんだから。こういうのは出来るだけ回数減らしてほしい。



|




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -