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「ねぇルイーノこの子ウチで飼っていい!?」
「仕方ないですねぇ、ちゃんと自分で面倒見て下さいよ?」
「するする、毎日お散歩行くから!」
「何言ってんですか、もといた場所に戻してきなさい!」
「えーディーノのけちー、ルイーノはいいって言ったものー」

 ぎゅうと男の子を抱きしめる私と引き剥がそうとするディーノと、二歩離れた所から適当な返事をくれるルイーノ。そして私に抱きつぶされそうになっている一番の被害者の狼族の少年。

「狼族なんて危険なもの飼えるわけないでしょう!」
「やってみなきゃ分かんないじゃん。やる前から諦めちゃダメだ! 自分の力を信じてチャレンジするんだ! あいきゃんどぅーいっと、いえすうぃーきゃん」

 知る限りの英語を尽くしたぜ。まさに自分にやれるだけの事はやった。
 ていうか狼族って危険なの? 獰猛なの? でもこの子さっきからすごい大人しいんだけどね。
 私がべたべた触っても全然嫌がらないし、ディーノなんて放るし尻尾掴むししてるけど怒んないよね。

「じゃあじゃあ、この子自身にここでハル様と暮らすか町に戻るか決めてもらいましょうよぅ。もうあーだこーだうるっさいです」
「そうだね、それが一番いいよね」
「あの、随分な言われ方してますけど、いいんですかハル?」

 ルイーノの毒吐きは今に始まったわけじゃないんだもの。日常だもの。もう彼女のルーチンワークなんだと思う事にしている。
 そっと腕を解いて少年を解放する。ああもっと堪能していたかった……。

「君の名前はなんていうの? あ、言葉分かる?」
「……分かる。ホズミ」

 ホズミか。日本的な名前だなぁ。ちょっと親近感。

「じゃあホズミ、町に家族がいるのかな? 帰りたいなら誰かに連れて行ってもらうけど」
「え、ハル様もしかしてその子と会話してますぅ?」
「私が話し掛けちゃいけないの!?」
「そうじゃなくて、狼族が何を言ってるのか分かるんですかぁ?」

 ルイーノが何を言っているのか私には分らないよ。だってこの子今私の言葉分かるって喋ったじゃない。首を捻るとディーノが溜め息を吐いた。どうしたどうした?

「家族はいない。僕一人だけ」

 ルイーノ達に気を取られてると、ホズミがぽつりと呟いた。

「それってもしかして今日の……」

 魔物に家族が襲われたんじゃ、最悪のシナリオが頭に廻ったけどホズミは頭を振って否定した。

「誰か一緒にいた人は?」

 もう一度頭を振る。

「じゃあ、ホズミはずっと一人なの?」

 今度は俯いた。そのまま顔を上げようとしない。耳がぺたんと倒れてしまっている。
 身体がぶるぶると震えだした。勿論私の。

「あああもうっ! ここにいればいいよ、ここに私と一緒に住めばいいよ!」

 こんな家なき子をディーノは見捨てろというのか!? どんな鬼畜だ貴様! 騎士の風上にも置けない奴め。弱気を苛めるのがこの国の騎士道だとでも言うのかコノヤロウ。

「残念でしたねディーノ様。こうなっちゃったらハル様は一歩も退きませんよぅ」

 ルイーノったら短い付き合いなのに私の事をよく御存じで。そうです、もう絶対に退きません。
 ディーノが何と言おうともこの子は私と住みます。居候の身で勝手に決めんなって言われたらその時は何か考えるけど、みんな許してくれると思うんだ。
 
 そもそもディーノは何をそんなホズミを毛嫌いしてるんだろう。子供嫌いってわけじゃないし。

「……小さいうちだけです。成長したら俺が引き取ります。分りましたね」
「うん、分かった」

 わーい許可が出たぁ。わしわしとホズミの頭を撫でると艶のある黒髪がさらさらと靡いた。なかなかの血統書付っぽいなぁ。

 良かったねホズミ。ディーノが面倒見てくれるなら将来安泰だよ。なんたって侯爵家様だからね。贅沢三昧だ。

「ディーノの家かぁ。私がいなくなった後の方が良い生活送れそうだねぇホズミ」

 意味が分って無いのか目をクリクリさせて見上げてくるホズミの可愛らしさったらない。
 ふとディーノを見ると、彼は目を見開いてこっちをじっと凝視していた。

「なに? どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません」

 にこりと笑う。何だろう今の微妙な間は。まぁ何でもないと言ってるんだから気にする事じゃないんだろうけど。

「じゃあこれからよろしくね、ホズミ」

 ぱあっと瞳を輝かせて尻尾を振るホズミ。あまりのキュートさに眩暈がした。
 
 この世界に来て五日目。私はついに本物の癒しを手に入れました。

 いかん、どんどんこっちでの生活が充実してきだした。このままでは異世界でリア充になってしまう!
 あれここってリアルって言っていいのか?
 




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