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 ディーノさん、ディーノさん。
 私の朝ご飯はまだかいの?
 
 というわけで、私は腹ぺこりんです。
 朝、迎えに来ますので待っていてくださいね、と言われたので部屋で大人しくちんとしているんです。
 けれど待てど暮らせどディーノが来ません。

 もう一度言います。私は腹ぺこりんです。
 あ、ホズミは朝起きたら居なくなってました。泣きたい。切なすぎる。
 まぁきっとディーノに見つかったら小言言われるからだと思うけど。
 ちくしょう、ディーノめ、どこまで私を苦しめるのか。
 
 よしもういいだろう。もう待てない。てわけで勝手に食堂行きます。
 場所分かんないけど、適当に誰か捕まえて聞いたらいいよね。
 
 と、部屋から出てテクテク歩いていると、人だかりがありました。不自然なくらいの人だかりが。
 よし、あの人達に食堂の場所を聞こう、なんて思ったんだけど、あれあの人だかりの中に居るのディーノじゃね?
 一人だけ背が高くて、あの濃紺の髪は絶対そうだよ。うん。
 
 うーわー、周り女の人ばっかりだー。
 ええぇ嘘でしょ、ここ神殿だよ。聖なる場所だよ。なのになにあのハーレム状態。ふざけてんの?
 
 あれ神殿で働いてる人って恋愛禁止じゃないの? そういうルールなし?
 尼とかシスターの場合だけだっけ? ていうかこの世界に私の世界の宗教観念を持ち込むのは間違い?
 
 まぁね、還俗って言葉もあるくらいだしね。神職に就く事と女を捨てるって事は同義じゃないよね。
 
 さてここで私に選択肢が与えられました。
 ディーノに声を掛けるべきか、掛けないべきか。
 ここはそっとしておいて、もっと他に誰か探して食堂の場所聞いた方が早いかな。
 
 私はそう決めると、すっとディーノから目を逸らして歩き出そうとした。
 
「ハル、どこへ?」
「……ディーノ」

 ですよねー、バレてますよねー。
 ディーノって私発見器ついてるもんねー。うわ怖いっ! 自分で言ってギョッとしたわ。
 
 女性を押し退けて私の方へ、見目麗しい聖騎士様がこっちへやってくる。彼の周囲を取り囲んでいた女性陣は遅れて私に気付くと通路の端っこに寄って深々と頭を下げた。ああもう、こういうのがあるからそっとしておこうと思ったのに!
 
「食堂探してただけだよ。待てど暮らせどディーノが来ないから」
「すみません、足止めを食らいまして」

 チラッと女性達を見てディーノが返事をした。女の人達は頭を下げたままだ。
 私が居る限りあのままなんだろうか。申し訳ないな……。ディーノの服をくいと引っ張ってこの場を離れるよう促す。
 
「朝から大人気だねぇ」
「彼女達のあれは本当に俺の足止めをしていただけですよ。枢機卿にでも言われたんでしょう。俺を引き離している内にハルに近づこうって魂胆です」
「うわやだぁー」

 テクテクと歩きながら、私とディーノは真正面を見ていた。こっちに向かって真っ直ぐ向かって来る数人にうんざりとする。
 
「おはようございます、ユリスの花嫁様」
「はい、おはようございます」

 とりあえず挨拶を返した私と、無言で会釈するディーノ。
 それで解放してもらえるとは思えないけど、出来れば早く会話を終わらせたい。お腹空いた。
 ていうか、会話とかいいからそっと隣抜けて行ってもいいかな。
 
 そそそ、と静かに横にずれようとしたのだけど、枢機卿のおいちゃん達も、すごく自然に私の前に立ち塞がるように動きやがった。ちくしょう、やりやがるな。
 
「ユリスの花嫁様、本日のご予定は?」

 え、なんで私のスケジュールを把握しようとするのこの人。怖いわ、ストーカーか。付いてくる気か、どこまでも付きに付いて私に神の教えとやらを説く気か。
 
「神殿内を色々と見て回ろうと思います」
「では、是非我々が案内を」
「いえ大丈夫です。見たい所は大体決まってるんです。この神殿、妙に空気が重たいもやもやした場所が多くって。何かあるのかなぁって」

 ちらりとおいちゃん達を見ると、いまいち分かってないみたいで微妙な顔をして首を傾げている。
 私の倍以上も生きているおじちゃん達をひたと見上げると、彼らは少し怯んだ。
 
「おかしいですよねぇ? 聖なる神殿で、どうしてあんな陰湿で淀んだ気が渦巻いてるんでしょうねぇ。誰かが、何か悪いものでも隠してるんでしょうか?」
「い、いや、そんな事はあり得ませんよ……。ここは神の御許なんですから。ああ、そういえば最近よく獣族や怪しげな者がこの中をウロついているようで。奴等の魔力の穢れが漂っているのかもしれません」

 獣族……ホズミやヨエルさんの事だろうか。怪しげな者っていうのはもしかしなくても興津さんか。
 彼女も、マクシスがここにいるかもしれないと踏んで、神殿内を偵察しようとよく探りに来ているみたいだから。

 ホズミ達の魔力が、淀みを生んでいる? 何を言っているんだろう、この人は。




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