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 丸いテーブルに三人がトライアングルを作るようにして座る。
 お茶とお菓子がセッティングされていて快適素敵。
 
 ああやっぱ自分の部屋が一番落ち着くわぁなんて。私はいつの間にこんなにここに慣れてしまったんだろうか。
 お城暮らしに慣れてしまったら。日本に戻った後にどうしたって苦労しそうだ。
 
 というわけで、興津さんやセツカさんと日本の話をたくさんして、向こうの感覚を取り戻そうという目論見です。
 
「はぁ? なにやってんの?」

 だというのに興津さんにいきなり、私がメイド服着てディーノに会いに行った時の話をさせられて、伝え終わったと思ったらテーブルに肘ついてる彼女に呆れられた。
 
 一体私の話のどこにそんな呆れる要素あったの!? 泣いたよ、涙まで流したんだよ!?
 
「そこで出てくんのが女友達て……。実はいた彼氏とか、片思い中の男とかがパッと出てくるところでしょうが! 修羅場の一つもないなんてどうなってんのよ、最近の女子高生はっ!」
「興津さんの高校時代こそどうなってたのか気になるわっ!!」

 修羅場か。常に修羅場だったのか。場数を踏み荒らしまくっていたと言うのかこの美人は!
 
「ちょっとセツカさん」
「いや、ない。その展開で女が出てくるのはない。盛り上がりに欠ける」
「ひっでぇ! そんな物語じゃないんだから、早々美味い事山場に持って行けませんて!」

 残念ながら私は盛り上がりとかいちいち考えて生きてないわ!
 興津さん叱ってもらおうと思ってたのに、予想外に私がダメ出しされてしまった。人生の。
 
「まぁでも、聖騎士と狼族だけでお腹いっぱいよね。その上過去の男なんて出てきたら逆に興醒めかもね」
「どうしても私の存在をフィクションにしなきゃ気が済まないんですね」
「ああ、そうだそうだ、あんたどうすんのよ」

 いつの間にかお茶から果実酒に手に持つも見ものを変えている興津さんがニヤニヤと笑いながら問うてきた。
 
「騎士も狼も素直にあんた帰しそうにないじゃん、いっそ日本連れてく?」
「行きません! 仮に行けたとして、あっちでどうやって生きてくんですか。戸籍もないのに。ディーノ何人ですかホズミの猫耳と尻尾どうすんですか!」

 ちょっと言ってみただけ、という風な興津さんは笑ったまま答えなかった。
 本気でこの世界の住人をあちらに連れて行けるなんて、彼女だって思っていないのだろう。
 
「それにディーノはちゃんと私を責任持って日本に帰してくれるって約束してくれてるんですから、どうするもこうするもありません」
「ふぅん? あの騎士がねぇ」

 疑わしいと言わんばかりの目を向けてくる。
 人の事ばっか言って、興津さんだって兎青年どうするんだっつの。いや興津さんが帰った後彼がどうするのか、少なからず心配していたから、彼女も離れる事を大前提で物事を考えているんだろうけど。
 
「でも……そうね。わたしもあんまり真剣に考えてなかったわ。上総達が日本にいずれは帰っちゃうんだって」
「セツカさん……」

 目を伏せて切なげにつぶやくセツカさんに胸がきゅっと痛む。
 興津さんも何と返事をしたものかと迷っているようだ。
 
「私だって辛いわよ。折角再会出来たっていうのにまた離れ離れなんて。しかも……しかもあんたとあのデタラメなイケメン騎士との行く末を爆しょ、見守れないなんて」
「おいあんた爆笑してたのか。わたしが頭抱えてるっつーのに曝笑してたんかい!」
「するっしょ! そりゃするっしょ!」

 けったけた笑ってるよ。心の友の恋煩いを笑い飛ばしちゃってるよ。
 いやしかし、私とてとても残念だ。私がこの世界に居る間にセツカさん達に進展があるかどうかと言われたら、まぁ無さそうなんだもの。
 
 時にハラハラ、時にニヤニヤしながら観察していたいのに。
 デタラメなイケメンことヒューさんに甲斐性というものが突然変異でも何でもいいから備わんないかな今すぐ。
 
「あれ。でも頭抱えてるって? ヒューさんとの間に何かあったんですか?」
「何かっていうか、何であんないちいちわたしに突っかかってくんのかと思って」

 え、そりゃセツカさんにホの字だからじゃないんですか?
 好きだから傍に居たい構いたい。でも素直になれなくて心にもない事ばっか言っちゃう。イジワルしちゃう!
 
 なんていう小学生男子みたいな思考回路なんじゃないの、ヒューさんって。
 ……さすがに失礼かな。いやでもことセツカさんに関しては唖然とするような言動するからなぁあの人。
 
 それ言っちゃダメでしょ! って事言っちゃって、案の定ブチ切れされちゃったりとか日常茶飯事だよ。
 
 ルイーノが一度目の当たりにして、すっごいビックリしてた。目を真ん丸にした後、今度は無表情で「何ですか、あの抉り甲斐のある人」って私に訊いてきた。
 いつもの間延びした口調でもなけりゃ、悪戯めいた表情すら浮かべず。弄り甲斐じゃなく、抉り甲斐ときたもんだ。

「やれやれ。じゃあ場も温まった所で、そろそろメインイベントと行きますか!」
「そうですね!」

 ぐっと拳を握りしめて奥津さんに賛同する。
 敢えて我が身を犠牲にして場を盛り上げた甲斐があったというもの!
 
 なんか察して露骨に嫌そうな顔するセツカさんに二人がかりで迫る。
 
「セツカさんとヒューさんの馴れ初め教えて下さい!」
「あんたと騎士ってヤッてんの、ヤッてないの!?」

 あっれ、興津さんと私の聞きたい内容が微妙に違う気がしたんだけど。
 同時に喋ったから完全に聞き取れたわけじゃないけど、なんか違ったよね?
 
「馴れ初めって言われても」
「おい私のは無視かよ」
「うっさいな……アイツとの馴れ初めから話せば分かるっつの」

 というわけで、話してくれるようです。無理かなって思ってたのに、さすが前世の友人興津さん。
 きっと私だけだったらはぐらかされて終わってたんだろうな。
 
「そもそも、アイツは親同士が決めた許婚で」
「許婚!? あんなイケメンと!? 羨まし過ぎるだろ!」

 うん確かに。労せずしてあんな美形ゲットするなんて、確率的に妖怪と仲良くなるより難しいんじゃないかな。
 
 興津さんが興奮するのも納得だけど、その婚約がどうなったのかは今の二人を推して知るべしだ。
 



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