▼page.4 「何よあれ。見せつけたいの? リア充爆発しろ」 全くその通りですね。 …………え? 「うわーっ!!」 背後に人がいるの全然気づかなかったー!! 扉が開いていて、私のすぐ後ろで仁王立ちして腕組みする女性が居た。 あ、あ、あ! もしかして、興津さん!? うん、さっきの物言いは間違いなく興津さんのはず! 初めて見る興津さんの素顔は、やっぱり想像通り美人さんだった。 染めた茶髪。日本人によくあるこげ茶の瞳。どちらかというとシャープな顔立ちだ。 黒衣の魔女と言われてた時は露出過多だった衣装も、今は普通のこの世界で一般的に着られている、踝まで隠れるワンピースだ。 確かに、これなら彼女が魔女だとは誰も気付かないだろう。 「ちょっとアンタ達、いつまでやってんのよ! マジ爆発させて欲しいの!?」 痺れを切らせた興津さんが、ヒューさん達に野次を飛ばす。 すっと長い杖を出してきた。やる気だ……! この人本気で殺(や)るつもりだ! 私と興津さんがガン見しているのに気付いたらしいセツカさんが、ヒューさんの鳩尾にナイス蹴りをかました。 かわせるだろうに、素直に蹴られたヒューさん。 ちょっと、ヒューさんが何をしたいのか私には解らなくなったよ。 あなたはセツカさんの事好きなの? ただの腐れ縁なの? はっきりしなよいい加減。 またラヴィ様とかに言って女子会開催した時に召集して説教でもしてもらった方がいいかもしれない。 「上総!」 「あん?」 ヒューさんから離れたセツカさんが興津さんを見て目を見張った。 そんなセツカさんに対して興津さんの態度の悪い事。腕組みしたまま、はぁ? と口をへの字に歪めている。 「誰よあんた」 「……雪香、小谷雪香(こたにせつか)」 「せ、せつ子!?」 「セツカだっつってんでしょーが! あーもう、いつまでその名前で呼ぶ気よ!?」 せつ子……。しかもイントネーションが関西なまりというか、あの涙なくして語れない有名な幼女のあの音なのよ。 思い切り咽ちゃったわ。 「うわーせつ子だ、そのリアクションせつ子だわ! は? なにそれ、コスプレ? え、なにやってんのあんた? え、誰?」 ものすごく興津さんが混乱している。 せつ子だ! と断言した後で誰? って……。 「とにかく落ち着いて話がしたいので、中に入りませんか」 目立つのです。ヒューさんもセツカさんも興津さんも! ついでに私の髪色も。 ジロジロと人に見られながら話す内容でもないしね。 いやでも、興津さんはお尋ね者だし、会った途端に戦闘になったらどうしようかと思ったんだけど、セツカさん達のお陰で回避出来た。 リア充もたまには役に立つという事か。 建物の中に入ると、兎族の青年もいた。こちらは警戒心むき出しに睨んできて、すぐに興津さんを庇うように前に出る。 セツカさんの方もヒューさんがいつでも剣を抜ける体勢にいるし。 ……おいちょっと待て、私は!? 私一人ボッチなんですが! ディーノー助けてー! なんだか寂しい。 「えーと、改めまして紹介を。こちらは王宮図書館員のセツカ ロッカさんです」 「ロッカ? なによ、どういう事?」 訝しげに見てくる興津さんの、腕組みをしているその上にとてもボリュームのある胸が乗ってらっしゃるのに目が奪われる。 D……いや、Eはあるな。じゃない、そんな事言ってる場合じゃない。 「説明するけど、笑わないでよね」 「いやもう、今の時点で笑いにしかならないでしょ。これ以上何言われても平気よ」 「……わたし、日本で死んで、この世界に転生したの」 「ぎゃははははっ!!」 なんという、綺麗なテンプレ。 セツカさんの「笑わないで」も前ふりだったのではと思わされるくらいだ。彼女にそんなつもりはなかったのだろうけど。 指差して大爆笑する興津さんに、セツカさんは拳を握りしめてプルプルしている。 「転生? あ、前世がどうとか中二な事前言ってのってせつ子の事か!」 覚えてたのか。私が思わず興津さんに言った事。 友達が中二設定! とかドツボに入ってしまったのか、笑いの渦から抜け出せなくなっている。 「あーおかしい……。女子高生のユリスの花嫁に、ペテン師に連れて来られた私、それに生まれ変わってこの世界に来たせつ子。しかも私とせつ子は日本での友人。なにこれ、仕組まれたとしか思えないわね」 漸く笑いを治めた興津さんが、私達を見比べながら考えるように呟いた。 仕組まれた、という言葉が私の頭の中をぐるぐる回る。 前 | 次 戻 |