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 王様が閃いちゃったせいで催される事になった降神祭。その準備の為に王宮も城下もなんだか騒々しい。
 予算組みをする宰相さんや警備の人員配置を任されているディーノ達騎士団の面々も頭を抱えていた。
 
「お前! そこ右に曲がってんだろうが、やり直せっ!!」

 罵声が響き渡っているのは、祭りのメインステージとなる舞台設置場所。
 今、特設会場となる部隊を大工さん達が作ってくれている最中だ。

 物々しいセットが組まれているのを見るのは圧巻だけど、私がこのステージに上がらなきゃいけないんだと思うと胃が痛い。
 キリングヴェイとは比べ物にならない大きさだ。
 
 あれはいかにも田舎の自治会のお祭りって感じだったもの。
 
 アイドルでも役者でもない私がまさかこんな大舞台に上がる日が来ようとは。
 私がぼんやりと作業風景を眺めていると、周囲の人達からジロジロと奇異な目で見られているのに気付いた。
 
 けれど特に珍しい事でもないのでスルー。そんなにこの髪が珍しいものですかねぇ。
 私からすりゃ、ピンクや水色の方がよっぽど目を引くと思うけど。
 
「ハル」

 呼ばれて振り返ると、セツカさんが手を挙げた。
 待ち人が来ました。今日はセツカさんとデートなのです。ついでにヒューさんもね。
 実は興津さんと思しき人の情報が手に入ったので、街へ確かめに行くのです。
 
 興津さんは一貫して黒の衣装にヴェールで顔を隠していたので、素顔を知っている人というのがいなかった。
 大抵の人はあの人のプロポーションにばかり目がいってばかりいたようだし。かく言う私もだけど。
 
 しかしそんな中でも「ちょっと変わった美人を最近よく見かける」という話を、王族お抱えの諜報部員さんが掴んできたのだ。
 たったそれだけなんだけど、時期的にも怪しいって事で私たちの出番。
 
 なんてったってセツカさんは興津さんの顔を知っているのだから。
 セツカさんの前世の高校の友人が興津さんっていう。
 何よその偶然、再会するにしたって異世界て! とツッコミを入れたくなる状況だ。
 
「なんだかんだ言って、セツカさんとヒューさんって仲良いんですか?」
「はぁ!? 何で!!」

 あ、いや……だって今日も連れだって来るし、ここのところ一緒にいるところを何度か見かけたから……、としどろもどろに説明する。
 怖かった。セツカさんの顔が般若みたいになった。
 
「ただの仕事だ」

 無表情に短くヒューさんが言った。これ以上ツッコんでくるなと含まれたような気がした。
 気になるけれど、確かにこれ以上深追いするのはよくないな。
 セツカさんのこの不機嫌具合から言っても。
 まったく、この二人は一体何があってここまで拗れてしまったんだろうねぇ。
 
「それで、上総はどこに現れるって?」
「本当に興津さんかどうかは分らないんですが、よく立入禁止になってるはずの場所に、ちょくちょく現れる女性がいるらしいんです」
「怪し過ぎるでしょそれ」

 そうですね。しかも現れる場所っていうのがまた意味深な場所なのだ。
 私がこの世界に落ちて来た、あのディーノが儀式を行っていた場所。
 
 大人二人の空気がギスギスしているせいで、居心地悪い思いをしながら現場までやって来た。
 ああ、ものの数十分だったんだけど、何時間も経ったような気分です。
 
 いつみても立派な建物。一度私が完膚なきまでにぶっ壊したステンドグラスも、ソレスタさんのおかげで今はもう元通り綺麗な姿に戻っているし。
 
 観音開きの扉を開けようと手を伸ばす。
 あれ? 扉に変な文字の羅列が刻印されている。前までこんなの無かったのになぁ。
 なんだろう、と思いながらノブを回した。
 
「あっ! いけない、離れて!!」
「え?」

 私がノブに手に触れた瞬間、バチっと電気が走ったような反発があって青白い光を帯びた。
 後ろにいたセツカさんが焦ったように警告を放つ。けれど、それは遅すぎた。
 
 目が眩むくらいの強い光に顔を手で覆った。
 
「……なに、今の……」

 視界がぼやける。目を細めながらセツカさんとヒューさんがいるであろう方を見た。
 
 そして絶句。
 
 セツカさんを抱きすくめるようにヒューさんが彼女を庇っていたのだ。
 おおお! と賞賛したい気持ちが半分、やるせない気持ちが半分。
 
 いや、あの。私。バチッてしたの私。扉開けようとして恐らく一番危険だっただろう人物は私だから。
 結局目くらまし程度で、後は静電気走ったなってくらいの衝撃しかなかったから良かったんだけどさぁ。
 これ本当に爆発とかしてたらヒューさんちょっと恨むよ。
 



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