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 長い長い一日だった。そして色々あり過ぎて頭パンクしそうな十日間だった。

 あれから鏡を無事破壊して町に戻った。みんな事情は侯爵さんやミラちゃん達から聞いていたようだけど、神器が失われた事実についての判断は渋いものだった。

 でも侯爵さんがきちんと説得して(言いくるめて)くれたからなんとか納得はしてくれたのだけれど。

 そして、舞台衣装を見事台無しにした私とミラちゃんはこっぴどく叱られた。しかも二人共体中に傷だらけだったものだから、女性陣が悲鳴を上げつつ治療やら説教やらで大わらわ。

 なんとか落ち着きを取り戻した頃、私はまた豪奢な衣装に身を包んでいた。

 私が祭りで行う儀式は鎮魂のものだから、魔物を大量に札処分したのと鏡を破壊した今こそ必要だ、という事らしい。

 というか、最初から私は事後要員として連れて来られたのだそうだ。

 ディーノとソレスタさんに鏡を処理させ、その後私が儀式を行って一帯を清めて一件落着というわけ。

 知らされた時、王様のあくどい笑顔がまざまざと脳裏に浮かんだよね。
 ほんと、ちゃんと説明してから寄越せってのよ! 詐欺だと訴えてやる。

 演舞の方は滞りなく終了いたしました。やったよ私。やればできたよ私!

 その後すぐ緊張が解けたのか気を失うように寝ちゃったんだけどね。

 目を覚ましたら侯爵さんの屋敷の部屋だった。着替えも済まされてたし、窓の外は真っ暗だったからこりゃもう一眠りするかな、と呑気な事を思ってごろりと寝返りを打った時。

 部屋の隅に丸くなってる人影が見えて心臓が跳ねた。

 気持ち的には身体が宙に浮いたくらいに驚いた。

 暗闇の中で目だけがギラリと光る人影に、恐怖のあまり心臓を口から吐き出しそうになりながらよくよく見ると、闇に慣れた目が移し出したのはホズミだった。

「ホズミ!?」

 ぎゃーす! なんであの子部屋の隅っこであんな座敷童みたいにじっとしてるの!?
 私の声に反応してホズミがもそりと動いて立ち上がり、びょーんとその場から跳躍した。

 正に飛び跳ねた。蛙みたいだった。
 そしてそのままベッドの上、というか私の上にダイブ。ぐえっと潰れた蛙みたいな声を出したのは私。

「ハルのバカ! バカバカミミズ!」
「ちょっと待てミミズは聞き捨てならない! どういう事、ホズミの中で私のヒエラルキーはミミズと同位置なの!?」

 ミミズって言われたら私、某ファーストフード店のハンバーグのミンチに使われてたとかいう都市伝説を思い出すのだけれど。

 そんな話を友達に聞きながらもしゃもしゃ食べてたんだけれど。

「なんでいっつもボク置いてっちゃうの! 一緒に居たいってずっと言ってる! 離れるのヤダァー……」
 
 怒りながら泣きだしたホズミ。毛を逆撫でる勢いで息巻いてるのに金の目からぽろぽろ涙が零れている。

「ハルが居なくなっちゃったらどうすればいいの……」
「私がいなくてもディーノやルイーノ達がいるでしょ? 私が元の世界に帰った後はディーノの所に行くって最初に約束したよね」
「ボクいらない……? 一緒に居ちゃダメなの?」

 はい!? この子は何を言っているんだろう。驚きすぎて反応出来ないでいる私が、図星を指されて固まったのと勘違いしたらしいホズミは傷ついた表情をした。

 そんなホズミを見て私も大層傷ついた。あんなに愛情表現をしつこいくらいしてたのに、何にも伝わっていなかったのかと。

「ホズミ」

 小さな体をぎゅっと包んだ。ぷるぷると小刻みに震えているのが切ない。

「出来るなら私だってホズミとずっと一緒に居たい。連れて帰りたい。ホズミ抱きしめてないと熟睡できないんだよ。これもう依存だよ依存。ホズミ大好き」
「ほんと?」

 まだ涙で潤んでるままの瞳で真っ直ぐに見つめてくる。

「ほんとだよ」
「ディーノより?」
「うん? うんホズミが好き」
「ルイーノより?」
「す、好きだよ」

 なんか話が変な方向に進んでる気がするのだけど。ホズミがちょっと愛情の重たい恋人みたいな感じに思えるのだけど。

 いや、私誰かと付き合ったこととかないから想像しかできないけど、こういうのちょいちょい聞いて相手の愛を確認いたがる女の人は恋人に鬱陶しがられるって、聞いた事あるようなないような。
 
「ハルが一番好き。だから、いっぱいいっぱい考える」
「何を?」
「離れなくていい方法。無かったらその時は……がまん、するから。だからがまん出来るように、こっちではずっと一緒がいい」

 力いっぱいしがみ付いてくるホズミを私もギューッと抱きしめた。

「もう置いてかないで。一人で行っちゃわないで」

 どうやらホズミの中でトラウマになってしまったようだ。
 その後何度も約束させられた。私のトラウマになりそうなほど、しつこく。

 とりあえずホズミと仲直りできました。
 


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