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 猫って自分の許容量をオーバーした予想外の出来事が起こるとフリーズして動けなくなるよね。

 今まさに目の前にいるミケくんがその状況。
 沢山の子供達に囲まれ、目をまんまるに見開いたまま動けないでいる。

 泥だらけの全身を屋敷の侍女さん達に洗われ拭かれブラッシングされ、可愛がられながらもそれが行き過ぎてもみくちゃにされた時も同じ反応だった。

 くそう、本当なら私がやりたかったのに、有無も言わさず猫好きな侍女さん達にミケくんを奪われてしまったのだ。
 あの時の悔しさと言ったら……。

 憂さ晴らしにホズミの身体を隅々まで綺麗にしてあげました。

 そして現在、子供達に抱っこさせろだ撫でさせろだとせっつかれて、きょどっている。
 町の人の誰もこの猫が獣族のミケくんだと気付いていないようで、さっきから誰かしらが構い通しだ。

 そんな彼を放置して私は今舞台に上がる衣装の着付けをしていた。

 所謂公民館のような町の人の集会場で、おばちゃん達にややこしい伝統衣装を着せてもらっている。
 この後髪飾りを付けられ化粧までするらしい。すでに体力がガリガリ削られている。

 因みに昨晩の前夜祭には出ませんでした。
 いえ行く気満々だったんだけど、侯爵さんに止められた。

「貴女のように目立つ人が、目立つ供を連れて行けば町の人々全員が貴女方にばかり意識が行って、十分に祭りが楽しめないでしょうが」

 と、正論なんだかどうなんだか分らない理由で。

「別に、貴女が昼間に散々雨に打たれたせいで風邪を引くかもしれないなどと思って留めようとしているわけではありません」

 ツンデレか! 侯爵様はツンデレなのか! いい歳こいたおじさんがやっていいキャラ設定じゃねぇよ。残念な事に激しく萌えない。

 そういうのは美少女がやってなんぼでしょうが。
 公爵の意外な一面を見て思わず顎をしゃくってしまったわ。なんでしゃくれたのか自分でも不思議。

 確かにディーノもソレスタさんも無駄にキラキラして目立つし女の子に騒がれるだろうけど、今晩避けたって明日にしょっとだけ先延ばしされるだけだ。

 でもまぁ、雨で気温も下がってるから私は風邪引くかもしれないから行かなくて正解だったんだろうけど。
 楽しみにしてただけに残念だった。

「ほうら出来たよ、お嬢ちゃん」

 ばしんと背中を叩かれた。げふんごふん。咳き込む私にカラカラと彼女達は笑う。

 私の黒の髪には金の糸が幾筋も編み込まれ、それごと一纏めに結われている。
 更にサークレットについている装飾が動くたびに揺れてジャラジャラと鳴るのが、なんともゴージャスな感じがする。

 目の下を赤のラインで縁取りされ、顔全体は少し白めのファンデーションが塗られた。
 服は前文明時代のデザインというものらしく、この世界で今一般的に着られているドレスとは全く型が違っている。

 下は胸元と腰回りを隠すだけの無地な下着同然のもの、その上に前合せになっている上着を着せられた。前は膝丈で後ろは踝あたりまで隠れている。

 腰帯はコルセットのようにぎゅうぎゅうと締め付けがきつい。
 上着の合わせ自体も組み紐でしまっていて、動いても肌蹴たりしないように固定されているので一応安心。

 淵を髪に差し込んでいるのと同じ金糸でざっくりと刺繍されていてるし、袖の部分は振袖のように長く垂れていて、そこにも大きな模様の刺繍が施されていた。

 舞台に立っても遠くまで映えるように、という事なんだろう。
 もう準備万端な私。まだ祭りが始まる前なのに。

 ミラちゃんの奉納が済んでから一斉に出店がスタートするのだ。
 つまり私はこの格好で出歩くかここで出番が来るまで大人しくしていないといけないというわけ。




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