▼page.1 昨晩遅くから降り出した雨はお昼を過ぎてもまだ続いている。 夜にはあがるだろう、と空読みのおじさんは言っていたから、多分大丈夫だろうけど。 折角の前夜祭が、雨のせいで全力いっぱいで楽しめないかもしれないかもしれないっていうのは悲しい。 キャンプファイヤーもあるみたいだけど、地面がぬかるんでたら座れないし靴の汚れとか気にしないといけないから面倒だよね。 雨の中動くってのは億劫なものだ。 それが森ともなるとだな……というわけで、只今森林行進中。 かっぱ来て長靴履いて。 聞いてよ、ソレスタさんに濡れない防水加工みたいな魔法ないのかって訊いたら、あるけどやってあげない。かっぱ着ろっつったんですよあの人。 なんでなんですか、どんなイジメなんですか。陰険でいて地味過ぎでしょ。このすっとこどっこい魔術師め。 さすがブラッドの師匠だけあるな。恐れ入ったわ。 ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん、と無理やりにでもテンション上げて森の中を歩いております。 「ハル」 「むぎゃっ!!」 ごふ。かっぱの中に埋もれていたホズミが胸元から急にズボッと出てきたせいで、ホズミの頭頂部が私の顎を直撃した。 いってぇぇぇぇ!! 思わずホズミおっこしそうになったわ。 狼の姿だったのに急に人型になったりするからその重量の差に腕が悲鳴を上げたけどよく耐えた私。 「どうしたのホズミ、苦しかった?」 「ううん、猫、いた。あっち」 「あ!」 ホズミはするすると私の身体から器用に降りると、かっぱの下から抜け出て前へと駆けだして行った。 あああ濡れちゃう! と思って伸ばした手が間に合うわけもなく。 何の為に私が抱いていたと……! 慌てて後を追う。 ぐずぐずになった土に足を取られながら走る。うん、現役の頃ならいい練習になっただろうけど、今はただただ鬱陶しい。 「ホズミ、待って!」 と、言われて止まる子供は少ない。賢い筈のホズミも例外じゃなかった。標的を捕捉してそれしか見えてなくて突っ走っている。私の声は届いていて無視されているのか聞こえていないのか。 「ホズ」 「先、行く!」 急に前を走っていたホズミが力強く地面を蹴って、くるりと空中で一回転して狼の姿に戻すと一段とスピードを上げた。 ホズミって実は猪突猛進タイプ? まさか私の制止も振り切ってっちゃうなんて……。 最近ちょっと私に対する態度がぞんざいになって来てない? うーん、わざわざキリングヴェイまで追いかけてきてくれたくらいなのに、こっちに来てからというもの、私よりディーノに懐いてみたり。 人間達との生活にも慣れて、興味の対象が私以外にもいろいろと移ってきたという事なのかな。 良い事だ。……淋しいなんて……思わないんだからね! うだうだと考えながら必死に走っていると、少し先に蠢く影が見えた。 近寄ってみれば当然だけどそれはホズミとミケくんで。 二人はくんずほぐれつ、じたばたと取っ組み合いをしていた。 …………。因みに言っておくと二人共狼と猫の姿ですよ。 人型でやってたら、見たらいけない構図だと思ってしまい、でもちょっぴり妄想してしまったのは、女子なら仕方ない事なんだよ。決して腐女子だとか、そういうんじゃない! と、思う。 私がとても後ろめたい妄想を頭の中から取っ払っている間にホズミがマウントポジションを取ってミケくんの動きを封じた。 動物の姿ですよ! 狼と猫になってしまうと、子供とはいえホズミの方が体格がいいからね。 「でかしたホズミ! やっちゃって!」 「がうっ!」 返事するように一唸りすると、ホズミは思い切りミケくんの首元に噛みついた。 「きゃああああああっ!!」 想像以上の勢いに絶叫してしまった。し、仕留める気満々じゃないかホズミ!? 無意識に顔を手で覆って目を閉じていた。 「ハル」 静かに名前を呼ばれて、そうろりと目を開けて指の隙間から覗いてみると、猫の姿のままミケくんはぐったりしていて、ホズミは人型になって立ち上がり私の方を向いていた。 「み、ミケくんは!?」 「気絶してるだけ」 「そ……そっか」 息の根止めてないか……。良かった。 ホズミはお利口さんだけど狼としての野生の本能ってやつもしっかり持っていて、時に狩猟の血が騒いじゃうのだ。 ある日城の庭園の隅でモソモソしてるなぁと思って覗いてみたら、鼠を咥えて嬉々としていた時は気絶しそうになった。 前 | 次 戻 |