▼page.2 ブラッドは一体どこに隠し持っていたのか小さいながらも鋭利なナイフを取り出してロープに押し当てた。 「え!? 待って切らないで、折る、首折れるから!」 地面からどんだけ離れてると思ってんのよ。このまま落とされて叩き付けられたら即死すんじゃないの私。 手を伸ばして着地したいのは山々だけど、多分それやったら手の骨もご臨終する。 以前に手はスカートから放せない。 足が痛いのもお構いなしに暴れて阻止しようとする私をあざ笑うかの如くこの男は一言 「知るか」 と呟いてあっさりとロープを切断した。 「ぎゃああっ!」 悲鳴に可愛げがない事に定評のある私です。ごめんなさい、女子力の低さがこんな所にも表れるのですね。 結果を言いますと、無事でした。 ほら小学生の時、反射神経を測るとかで、上から落とした定規をどれだけ早く掴めるかっていうのやらなかった? あの要領です。右手でロープを切ったブラッドは、ガッと私の腰を左手で抱え込んで地面に激突する寸前で止めてくれたのです。 肝が冷えるから普通に助けろ! 「も、ブラッド!」 この男、私を降ろすどころか、あろう事かひょいと脇に抱えやがりました。 片手で。わお細身に見えて力持ち! なんて好意的になんてみてやらないんだからね! 「どうしてあんたはいっつもいっつもかかえるの!? 抱き上げるって選択肢はないのか!」 お姫様抱っこしろなんて言いませんが! それはそれで居た堪れない。 でも完全に荷物扱いされるとショックなんですが。 「抱いて欲しいのか?」 「ブラッドが言うと卑猥だ!」 違うよ、男女のほにゃららなアッチの話じゃないよ! 私が言いたいのは抱っこ。 百も承知で言ってんでしょうけどね、この人は。ああもうやだやだ、このセクハラ大王め。 「お前、狼を連れ戻しにきたんだろ」 「戻しにって……ホズミはブラッドのとこいたの?」 「拾った」 何をやってんだ。あんたもホズミも。 抱えられながらもバタバタもがいていた私は、ぐったりと身体から力を抜いた。 拾ったって、森を歩いてるホズミを今の私と同じようにヒョイと抱え上げたんだろうか。 そしてホズミは大人しくされるがままだったのか? だからあれほど変質者には気を付けろと言いつけていたのにあの子はっ。 というかホズミといいミケくんといい、ブラッドってすぐに動物拾っちゃうんだね。 なんだい、鬼畜なくせに動物好きなところを見せてちょっとポイント上げようとでもしているのかい。 実は心優しい一面もあるんだってアピールか。 誰に対してしてんの。この人いっつも一人じゃん。 という事は見せかけだけじゃなくて、本心からホズミもミケくんも放っておけなかったとか? うわーっ、ないわ、それないわ。今更そんなキャラ設定だしてくんな、あんたはツンデレですか! 私が大人しくなったのを、暴れるの諦めたからと思ったのかブラッドは私を脇に抱えたまま歩きだした。 とても歩きにくいと思うから降ろして欲しい。 暫く会話もなく移動を続けていると、見覚えのある場所に出た。 可憐な花が咲き乱れる、遠くの山まで見渡せる平坦な広いこの場所は初めてミケくんに遭遇した場所だ。 ここが目的地だったらしくやっとブラッドに降ろしてもらった私は平衡感覚がおかしくなっていたらしく、久しぶりの地面の感覚によろけた。 ズキリと右足が痛む。 「あれ、あんた!」 右足首を擦りながらふてぶてしい態度のブラッドを睨みつけていると、少し離れた所から声を掛けられた。 多分私に言ったんだろう。 「ミケくん」 身体を仰け反らせて典型的な驚き方をしている猫族の少年だった。 「きゃーミケくーん!!」 猫耳しっぽ触らせてー! 両手を広げて抱き着かん勢いで駆け寄った。ていうか抱き着く気満々だった。 だけどあっさりと横に避けられて、つんのめった。 前 | 次 戻 |