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「それからトモヨさんに一つ忠告を。これから先、何があっても一人にはならないと約束してください。誰かがいつでも近くにいて守ってもらえる、その状態を保ってください」
「どういう……?」
「これはわたくしの教訓ですわ」

 王都から旅立っても、トモヨさんの身辺は団長達が固めているのだから大丈夫だと思いますが。
 自覚を持っていただいた方がいいでしょう。

「この神殿が襲われた後、わたくしは王都を出奔しました」

 目を見開くトモヨさんに笑いかける。
 
 もう嫌になったのです。いえ、違うわね。怖くて仕方が無くなったのです。
 
 もしかしたら、今わたくしに労わりの言葉を掛けてくれているこの人が次の瞬間に闇堕ちして襲って来るかもしれない。
 笑いかけてくれる人が、将来魔族となってわたくしを殺しに来ないと誰が保障してくれるの?
 
 そして魔族となったなら、例えそれが肉親であってもこの手で屠らなければならないのでしょう?
 
 その全てが、恐ろしくて恐ろしくて、とても他人が近くにいる場所になどいられなかった。
 
 最初から魔族として、敵としてわたくしの前に現れたのなら、そこまでの躊躇いも罪悪感もなく向き合えます。ですが、親しかった方が突然、コインを裏返したように敵に回るというなら話は違う。
 気持ちの整理がつきませんでした。
 
 だからジェイドと二人きりで王都から逃げ出しました。
 
 それから暫くは、一目を避けながら各地を転々として魔族と戦い続けました。
 
 ジェイドとの旅はとても気が楽でした。絶対に裏切らないあの子が居れば何も怖いものなどありませんでした。
 ずっと二人だけでいい、そう思っていました。
 
 そんなの出来やしませんのに。人間もそうですが、精霊もその力は無限ではありません。
 消耗した力は休む事で回復します。精霊が休む場は神殿。ですがもう魔族によって破壊されてしまって、どうにもなりません。
 
 わたくしの中に入って、幾らか休んだりしていましたが、そうしている間にも魔族は絶え間なく襲ってきます。
 ジェイドの力に頼るしか術がなく、あの子は最後の一滴まで力を使い果たして消失したのです。
 
 馬鹿なわたくしが王都から逃げたばかりに、あの子は死んでしまった。
 その後すぐに、わたくし達を捜索していた部隊に発見されて、わたくし一人が連れ戻される事になったのです。
 
 それからは、既にお話した通り。
 屋敷の別邸に閉じこもるばかりでした。
 
 トモヨさんもわたくしと同じ、精霊の力無くして魔族と戦う術を持っていない。
 だから絶対に、精霊とトモヨさんだけになる状況に陥ってはいけないのです。
 ウィスプもまたトモヨさんを助ける為ならば己を投げ打ってしまうから。
 
 きっと、魔族討伐に各師団長を付けるだなんて国王が言い出したのは、わたくしの暴挙に懲りたからでしょうね。
 また同じ過ちを起こして最後の精霊まで消失させられたら堪らないと。
 
 
 ふと気づくと、僅かに周囲の景色に茜色が混ざり始めていました。
 
「随分と話し込んでしまいましたわね。わたくし達も早く帰りませんと。御者が寝てしまいますわ」
 
 大きく手を上げて伸びをしました。
 いやですわ。こんな暗いお話ばかりしていたら肩が凝ってしまいました。
 
「トモヨさん。わたくしは旅にはついて行けませんが、その分困った事がありましたらオズを頼って下さいませ。あの人はあれでそれなりに頼りになります……多分。きっと。微妙に?」
「微妙なんですか……」

 あらあら。どうせオズも、旅から無事帰れたならその時にはトモヨさんを憎からず想うようになっているでしょうから、今の内から好感度を上げておこうと思ったのですが、どうやら失敗してしまったようですわね。
 
 まあいいでしょう。オズの事なんて。
 
 それよりも、わたくしの役割ももう少しで終わります。
 長かったようで短かったですが、トモヨさんとこうして仲良くなれて本当に良かった。
 勝手な妄想でいけ好かない女だと思っていたのが申し訳ないくらい、良い方でした。
 
 さてでは、もう少しの間頑張りましょう!
 
 なんて、綺麗にしめようと思っていましたのに……
 
「本当に寝こける人がいますか!!」

 待ちくたびれた御者が、本当に馬車の中で熟睡していました。
 



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