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 ランベールねぇ……聞いた事のあるような無いような。
 ジッと彼を観察してみます。
 オレンジのふわふわした髪に、二重のくりっとした同じ色の瞳が可愛らしい……と男の方に言っていいのか分りませんが、中性的な面立ちです。
 歳は、そうですね。アルやレオナルド王子とそう変わらないくらいでしょうか。
 お若いのに実力で高位へのし上がったのね。
 
「部下が大変失礼をいたしました。ご無礼をお許し下さい。ルルーリア様」
「謝罪は結構ですわ、ランベール様。……ラン、ランべ? あ!? ランベール!?」
「は?」
「貴方はトモヨハー……えーあー、魔術師団長様ではございませんかぁ」
「トモヨハ?」

 おおっと危ない。もう少しで「トモヨハーレムの一員じゃないの!!」なんて言ってしまうところでしたわ。
 うふふ、と笑って誤魔化してみましたが、とても視線が痛いです。この女頭イカれてんのかって目で訴えてきています。
 
 急に名前が出てきたトモヨさんも困惑してわたくしとランベールをキョロキョロと見比べています。
 
 元々わたくしとランベールは顔見知りでもありませんでしたし、前世では遠目で見るばかりできちんと拝見していなかったので、どのような方か存じ上げておりませんでしたが……。
 
 そうなのね、この少年が魔術師団長なのですね。
 
「お若いのに団長様だなんて、ランベール様はとても優秀でいらっしゃるのですね。ウチの弟も見習ってほしいものです」
「弟殿は確かまだ十五、六では? まだまだこれからでしょう」

 低姿勢に徹するランベールは、そうアルを擁護してくださいました。

「けれど、ランベール様も愚弟とあまり歳は変わりませんのに」
「……変わりますよ。僕はもう二十歳です」
「は、たち? にじゅっさい?」
「ええええぇぇっ!?」

 わたくしとトモヨさんの二重奏が墓場全体に響き渡り、木霊が「えー」「えー」「えー」とどこまでも続いています。
 そしてその後に落ちた深い沈黙。先程まで、さわさわと木々が風に揺れてとても心地の良い空間だったはずですのに。
 ジェフは「あーあ、オレは知らない」とでも言いたげにそっぽを向いています。
 
 たっぷりと数秒の間を置きまして。
 
「どっからどう見ても二十歳でしょうが」
「どの角度からどう見たって、アルくらいじゃないですの!! わたくしと同年だなんて認めませんわっ」
「こんな二十歳許されないよ! 可愛過ぎる! 犯罪の匂いがする!!」
「この年齢詐称め! 訴えてやる!!」
「あんたは芸能人か! 違うっていうならアイドル事務所にわたしが履歴書送っておくんだから!」

 女二人で寄ってたかってランベールを噛みつかんばかりに攻め立てました。
 トモヨさんの言っている事の半分は理解できませんでしたが、まぁわたくしと言っているレベルは大差ないと思われます。
 
「きっさまらそこに直れ! 消し炭にしてくれるわ!」
「魔王よ! 新たな魔王の誕生よトモヨさん!」
「ウィスプ起きてー!」
「あんたら全員いい加減にして下さい! 場所を考えろ場所を!!」

 ふぁっ!?
 ジェフが急に怒り出しました。とてもまともな事を言っていますわ。
 先程までわたくしに、恥を知れだなどと悪口雑言を叩きつけていた人とは思えません。
 なんだかその事にちょっぴりイラッとしたのは気のせいにしておきます。
 
 確かに死者が眠る場所で騒ぎ立てるのは宜しくないですものね。
 
「申し訳ありません。受け入れづらい事実に直面して少々混乱してしまいまして」
「これ以上僕を愚弄すると、本気でお相手致しますよ、ルルーリア様」

 あら本気で怒らせてしまいましたわ。いやだわ、オズと違ってわたくしの軽口にいちいち過剰反応して下さるものだから、ついつい調子に乗ってしまいました。トモヨさんも珍しく便乗してくださいましたし。
 それだけ、ランベールの外見が詐欺だと言う事ですわ。自覚していただきたいものです。
 
「はぁ……イーノックから話は聞いていたが、闇の巫女がこんなだとはな……」
「あら。裏でどんな話をされているのやら」
 
 とても気になってしまいますわ。事と次第によってはイーノックを再起不能にする薬を開発しなくてはなりません。

「国王への挨拶もありますし、僕等はもう行きます。それではまた」

 言い逃げ? 言い逃げですのね?
 形ばかりの礼をするランベールとジェフに、わたくし達も礼をとりました。
 
「そうそう、ルルーリア様。あまり不用意に外出はなさらない方がいいですよ。ジェフだけじゃない、僕や魔術師は皆、貴女が憎くてたまらない。危ない目に遭いたくなければ、お屋敷でじっと身を潜めている事です」
「……ご忠告、痛み入りますわ」

 まったく。どこの団長もいい性格をしていらっしゃる。
 最後の最後で本音をぶちまけていくだなんて、本当に言い逃げもいいところですわ。
 



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