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「さっさと立ち上がれ」
「そ、そこは貴方、紳士的に手を差し伸べてくれるところじゃなくて?」

 と言いつつ自力で立ち上がって、腰に手を当てる。
 男の前に立つと、相手の方が随分と背が高いからかなり見上げないといけないので首が痛いです。
 まったく、無駄に成長してくれちゃって。誰得ですか。
 
 それにしたって口の悪いこの男ですが。名はオズワルド・ユアン・ホフステン。中途半端に長い銀髪に鋭い黒の瞳で、黒ずくめの軍服なんて着ちゃったりなんかして。
 怖いの。とっても怖いのよ見た目が。そして中身も。
 昔っからの付き合いだけれど、いつからこんな威圧感たっぷりになってしまったのかしら。
 
「ルルーリアさんっ」
「トモヨさん」

 半泣きのトモヨさんに抱き着かれました。つ、冷たい。聖水かかったトモヨさん冷たい!
 彼女が落ち着くのを待ってオズワルドがついて来るよう促してきました。
 ここは彼の庭みたいなものですし、心配しなくてもちゃんと目的地に連れて行ってくれるでしょう。
 その道すがらトモヨさんにオズワルドについて説明させていただきました。
 
 オズワルドは竜王の位を冠する竜使い(ドラグーン)です。厳しい鍛錬を耐え抜き、更に己の力で竜を屈服させ契約出来た者のみがなれるドラグーン。その中の頂点たる竜王は、帝竜という最高位の竜と契約を果たした者に与えられた称号です。
 
 そもそもオズワルドは、名門ホフステン家に生まれた武人のサラブレッドですから基礎能力が抜きんでていますし、ドラグーンになるとか言い出した時から、ああコイツなら竜王になるだろうなと予感めいたものはありました。
 まさか本当になるとはと、竜王になった知らせを受けた時は舌打ちしたものです。
 
 何故わたくしがオズワルドについて詳しいのかと申しますと、早い話が幼馴染なのです。ホフステン家当主の次男である彼は、わたくしの護衛騎士になるようにと幼い頃から教育を受けていまして、暫くはわたくしの屋敷で暮らしていた時期もありました。
 
 でもある日竜という存在に魅入られて、ドラグーンに、俺はなる! って飛び出して行っちゃったんです。お父様が男はロマンを追い求めるモノだとか言って許したので、ホフステン家はお咎めもなく、わたくしには別の護衛がついたというわけです。
 
 まぁ、こんな不遜な男につきに付いて暴言吐かれる事になってたかと思うとゾッとしますので、竜王になってくれて良かったと言えましょう。
 
 うんうんと現状に満足するように頷いていると、トモヨさんはじっとオズワルドを見詰め
 
「オズワルドさんってカッコいいですね」

 なんて言いました。い、今わたくしの頭に雷落ちたくらいの衝撃が走りましたよ。
 大慌てで彼女の額に手の平を当てて熱を測る。
 
「あの、ルルーリアさん?」
「いえだってオズがカッコいいなんて血迷い事をおっしゃるから」
「血迷い事!?」

 そりゃあオズワルトが世間一般的に綺麗な顔をしているという事実は認めますけれど、でも彼の人相って性格が滲み出て冷たい感じなんだもの。あまり第一印象で好感が持てるものではないと思うのですが。
 
 あら? でもここでオズワルドが好印象という事は、トモヨハーレムの中でも結構いいポジションにオズワルドはいるようになるのかしら。確か年齢もトモヨさんと同じか少し上くらいのはずですし。
 
「何下らん事を喋っているんだ」

 少し前を歩いていたオズワルドがいつの間にか立ち止まってこちらを向いていました。
 大きな手でわたくしの頭を掴むと乱暴に左右に揺する。
 
「なにをなさるの乙女に向かって!」
「そのナリで偉そうに言うな、ルルーリア・ハン・ヘルツォーク」

 わざわざ長ったらしいフルネームで呼ばれてムッとする。
 しかし今のわたくしの格好は公爵家の人間としては大失格な、家人が見れば卒倒してしまいそうな草臥れ具合なのは本当。
 地下に落とされた時に服は埃まみれになったし、魔獣から逃げ回っている最中に色んなところを引っかけて破れてしまっているしで、他人様に見せられたものではありません。
 
「もう地上に出る」

 オズワルドの言った通り、もう少し先から日の光がもれていました。
 ああやっと出られる!
 因みにオズワルドが現れてから魔獣が急に出て来なくなったのは、彼が身に付けている竜鱗のおかげです。竜という存在は獣にとって畏怖すべき存在なので、それを持っているだけでレベルの低い獣が逃げ出すのです。
 
「ねぇオズ。ルーク様はお元気かしら」
「相変わらずだ」
「何よりだわ」

 ルークというのはオズワルドと契約している帝竜の名です。
 とても大きく威厳のある方ですが、人懐こい一面もあったりするお茶目さんなのですよ。オズワルドとは性格は正反対。
 外で待機していた竜の背に乗ってひとっ飛びで城砦に着きました。ここはドラグーン達の拠点地です。

「トモヨ、トモヨー!!」

 竜から降りた途端にウィスプがトモヨさんに向かって突進してきました。
 どうやらアルと一緒にここで待たされていたようです。巫女と精霊は一心同体、片時も離れていたくないのが当然ですから、さぞかしもどかしかったでしょう。
 これは暫くトモヨさんにべったりへばりついて離れないですね。
 



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