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「思ってたよりお歳なんですのね」
「言い方!」

 ゴチン!
 アルに今度はグーで頭を叩かれました。姉を姉とも思わぬこの所業。どうしてやりましょうか、いえどうにもできないから困っているのですけれど。
 
「わたしは歳相応のつもりなんですけど、童顔に見られがちな民族なんで」
「まぁ、それは羨ましい限りですわね」

 努力なく歳よりも若く見えるなんて、魔法みたいだわ。
 困ったように笑うトモヨさんだけど、そんな顔が欲しくて欲しくてたまらない女性は世の中に大勢いらっしゃるのに。
 
「あらでも、二十二ならトモヨさんは既に結婚してらっしゃる?」
「えっ、いや! それは無いです! 彼氏もいないし」
「カレシ?」
「こ、恋人」

 ああ。またアルと二人同時に頷く。
 そうなの、結婚も、結婚を約束するような人もいなかったのね。
 わたくしでも既に行き遅れのレッテルを貼られているのだけれど、トモヨさんもそうなのかしら。
 なんて思って聞いてみると、トモヨさんの世界では結婚適齢期はもっと上で、二十代前半なら未婚でも全然おかしくないとの事。
 
 わたくし、今度人生やり直すならトモヨさんの世界に行きたいわ。
 
「未婚なら皆さんにまだ希望があるという事よね」
「みなさん?」
「いえ独り言です」

 この後に出来るトモヨハーレムの皆さんですよ。アルを含む。
 
「良かったわね、アル」
「あんま聞きたくないけど、何が」
「いえいえ」

 トモヨさんの身が心配で魔王退治について行ってしまうくらい好いてしまうのよ、なんて言えません。言ったら意地っ張りなこの子の事だから変に感情が捻じ曲がってしまいそうですし。
 
 年上の義妹が出来てもわたくしは受け入れます。心配ご無用よ、とウィンクするとすっごい眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をされました。
 
 でもそうね、現実的に考えれば魔王を倒した後はトモヨさんは元の世界に戻ってしまうのかしら。それとも愛する方がこちらに出来れば残るのかしら。
 はたまた唯一の巫女を手放すまいとあれこれ上層部の方々が手を尽くす可能性もありますね。
 
 既成事実をつくるだとか? ストーリーとしてはやはり一国の王子たるレオナルド様と婚姻を――というのが一番分り易く盛り上がるけれど。
 
「トモヨさんって年下の男性と結婚ってアリですかナシですか?」
「はい? そう、ですね。二、三くらいなら下でも。どっちかって言うと年上が好きです。ていうか何の話ですか!?」
「世間話です」

 そうだけど! とがっくり肩を落とすトモヨさん。
 そうなのね、年上が好みなのね。だったら王子もアルも俄然不利じゃない。えっと、アルで七つ下で王子が六つ下。
 残念、歯牙にもかけられそうにないわね。
 
 がし、とトモヨさんの手を両手で包み込む。
 
「一緒に頑張りましょうねトモヨさん。婚活を!」
「仕事しろ巫女共!!」
「わたしまで一緒に怒られた!」

 どこまでも冷徹なアルのツッコミがさく裂しました。
 巫女としては十分頑張りましたよわたくし。今後は少しくらい女として生きたっていいじゃない。
 それとも一生独身を貫けと言うの。そんな世間の針のむしろみたいなのわたくし嫌!
 
 そんな人生送る為に二回目繰り返してるんじゃないんですから!
 ああいえ、勿論自分の幸せは二の次ですよ? ちょっとばかし考える余裕が出来たら欲が出てきまして。
 
「トモヨはボクのだよ!!」

 ずっと庭園に夢中だったウィスプが戻ってきてトモヨさんに抱き着く。
 
「そうね、ウィスプが男性だったならね」
「ボクのだもん!」

 ぎゅうとトモヨさんにしがみ付くウィスプはとても可愛らしい。外見は人間で言うなら七・八歳くらいの女の子です。
 だから無理っていうわけでもないのですが。
 精霊というのは男の子っぽい、女の子っぽいという見た目の差異はありますが、実際に性別はありません。
 当然ではありますが、彼らに恋愛という概念はないのです。つまりウィスプがトモヨさんを自分のものだと言っているのは、自分の巫女だという独占欲ですね。

 懐かしい。ジェイドにもそういうところがありました。アルと仲が悪くってね。ちなみにジェイドはウィスプと同じくらいの小さい男の子の外見をしていました。
 
 ウィスプとトモヨさんは仲良く微笑み合っている。その様子を見て少し心がざわつくし寂しくはあるけれど、精霊と巫女が一対として一緒にあれる事は素敵だと思える。
 
 アルににっこりと笑いかけると、生意気な弟は呆れたようでどこか安堵したように溜め息を吐いた。
 
 償いをしましょう。前世で彼女達に強いた辛い別れは今世では絶対に起こさないし起こさせない。前の分まで皆様には幸せになっていただかなくてはならない。
 
 やってやろうじゃないですか! 精霊の消えた元巫女のわたくしに何処まで出来るか分りませんが、命の限りは頑張りましょう。
 



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