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「朔哉、お前教師になれンのか?」

腐れ縁の幼馴染がバカにするように問いかける。
望月はやってみなきゃわからねぇだろ、と自信満々に返すが、彼はけらけらと意地悪に笑って、


「ムリだろ、言うこと聞かねぇヤツ背負い投げしそうだし」

と、更に上手に返してくる。
確かに自分は柔道有段者で、その辺の子どもに負ける気はしないが。


「言葉ってもんがあるだろ?俺はそれで何とかすンだよ!」


と反抗した。
だが、よくできた(いや、わるくできた)幼馴染はまたけらけらと男前の顔を意地悪に歪ませて、




「嘘つけよ、ムリムリ。お前沸点低いし、つーか変態だから生徒食って捕まりそうだな!」



そう笑って、消えた。








「瑞樹てめぇええええ!!!俺の好みは年上のお姉さんだボケがぁ!!」


望月はそう叫びながら飛び起きた。
そこは紛れも無く、1LDKの自分の部屋。
幼馴染が居るわけも無く、恥ずかしいことにでかい独り言を叫んだだけに終わった。
なんという目覚めの悪さか。

春なのに汗でぐっしょりの身体に気持ち悪さを覚え、望月はまだ5時前なことを確認し、シャワーを浴びに浴室へと向かった。


温度は42℃。
少し熱めのお湯が、望月の頭を覚醒させてゆく。
流れる雫を感じながら、また先ほどの夢を思い出す。
出てくるは、家が近所で幼稚園から腐れ縁で繋がっている西條瑞樹という男。
男前のくせに口が悪くて意地悪。
そのくせ、勉強も出来てスポーツ万能など幼馴染としてはムカつく逸材だ。


「あー!ちくしょう!夢にまで出てきやがって…地元に近いからか…!?」


シャワーのコックを閉め、またひとりごちる。
望月の呟く通り、奈多高は望月の地元に近かった。
と、言っても隣町というレベルではなく車で15分以上離れたところだが。

望月が最後に彼の消息を知ったのは、彼が大学に行くことを断念し地元のスナックと工場で働いているということだけ。
それ以降は全く連絡も取っていない。


暇が出来たら、あいつの働いている(はずの)店に飲みにでも行って一発殴ってやろう。


そう無駄な決意をして、望月は随分と早い出勤の準備をし始めた。
春休みという赴任前の準備期間に、高校1年生用の数学指導教本と自分なりの解説を合わせて作り上げたノートと書き込みだらけの教科書。

それを見つめ、また夢の中に出てきた西條のセリフを思い出す。

『お前、教師になれンのか?』

前までは「なれるっつの!オメーこそ獣医とかなれンのかよ!?犬猫が逃げ出すような目つきしやがって!」と返せる自信が合ったのだが。
今はあまり無い。数学の教科書を見つめるたびに。


(…ぜってぇ、うちのクラスの奴ら数学とか嫌いだろ…)


自分の授業が始まった途端、暴徒と化しそうな予感がするのだ。そして、ブチ切れて暴れそうな自分も居る。
もしくは、また先日のように東條ひよりが暴れて学級崩壊。



また、ため息がこぼれる。
朝から叫んでひとりごちてため息。
なんて充実した朝なんだろうか、と自虐的に苦笑しながら望月は朝食を作り始めた。

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