キライ
----------
小さな町の一角にある、小さなホームセンター。
小さくとも、その町の人々は好んで利用し、ゆったりとした時が流れていた。

「こんにちは、西條さん」

「いらっしゃいませ、こんにちは」

花壇の肥料を買ってゆく老婆は、くしゃりと笑顔を見せながらそう話しかける。
何度も訪れている常連ゆえ、店員も親しく笑顔で返事をした。

その時、忙しく自動ドアが開き、ばたばたと足音が響き渡る。
本人は静かに走っているつもりだったが、走るのがあまり得意ではないのか、足の裏を全て地面につけた走りなので非常にうるさい。

それは、笑顔の店員に見つからまいとこそこそと遠回りをしようとしたためである。
1人の男子高校生が、チラチラとレジを見ながら通り過ぎた。



「…少々お待ちください、お客様。
北條、少しレジ交代してくれ」


「わかりました」


店員は、近くで商品を補充していたアルバイトの男子高校生にレジを任せ、笑顔のまま事務室へと向かう。
その足取りは軽く、それでいて静かだ。
おかげで男子高校生は店員の足音に気づかない。

そして、こそこそと事務室に入ろうとする男子高校生の髪を、思いきりひっつかんだ。


「ぎゃ!?痛っ!」
いきなりの痛みに、悲鳴をあげた高校生。一体なんだとイライラしながら振り向けば、頭上には無表情の店員が怒りのオーラを彼に思いきり放っていた。
あまりの恐怖に思わず身が縮こまり、思いきり息を呑む。
もう、反抗することも出来ず口を噤んだ。
そして店員は彼の頭をひっつかんだまま、ゆっくりと事務室に入る。
…しばらくの沈黙の後、


「またテメーは遅刻か岡崎ぃいい!!」


「どああ!すンませんすンません!痛いっ!?」



響く怒号と必死に逃げているのであろうウルサい足音。
がたんがたんという音が、近くのレジにばっちり聞こえている中、老婆はそれはそれは嬉しそうににっこりと笑った。

「いつ来てもあの2人は賑やかでいいわねぇ」

息子夫婦が上京し、孫になかなか会えない彼女は、2人の掛け合いをそれこそ嬉しそうに眺める。
まるで兄弟のようだわ、としみじみと呟くが先ほどの2人は兄弟とは程遠い仲であった。


店員からレジを受け渡されたアルバイト・北條は、乾いた笑みを作ってボタンを手慣れた指で打ちながら答える。


「…そうですね」

未だ続く説教と必死に謝る声が響く中、今日も今日とて夕方のゆったりした時間が、始まる。



星虹サイダー


そんなここは、浅見町にある少し小さなどこにでもあるホームセンター。

- 1 -


[*前] | [次#]

〕〔サイトTOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -