小説 | ナノ
オリジナル2
「あ、赤坂がない?」
俺が大声を上げると警官のおじさんは首肯しながら眉をひそめた。
「確かにここは東京だけど、そんな地名は聞いたことがないよ。 秋坂とかと間違えてるんじゃないの」
溜息とともにおじさんの声が響く。 さんざん同じことを言っているせいか呆れたような顔で俺を見ている。
どういうことだ、赤坂がないなんて。秋坂なんてこっちが聞いたことないぞ。 俺は赤坂に確かに住んでいたんだ。
困惑気味におじさんを見ても、額にしわを寄せたままで嘘をついているようには見えない。まるでこっちがおかしいような扱いだ。
これ以上言っても何も解決しないことは目に見えていた。
「……ありがとうございました」
おじさんの目から逃げるように交番を出ると、日が傾いて赤くなった空が見えた。
夜が来てしまったら今日は野宿か。そしてこの先ずっと家を見つけられないなら、死ぬまで野宿になるのか。 路上で新聞紙にくるまっている将来の自分(40)を想像して鳥肌が立った。うわーないわー。そんな悲しい将来は嫌だわー。
「ちょっとあなた」
しゃんとした声に思わず背筋をただして振り向くと、着物を着た美人なおばあさんがそこにいらっしゃった。
(うはあ。きれいな人だなー)
白い肌と髪に藤色の着物がよく映えていて、しっかりとした姿勢や目つきからとても若々しく見える。すごい和風美人だ。
「行くところがないのかしら?」
どうやら先程のやり取りが見られていたらしい。 恥ずかしさに頬を染めながらも頷くと、おばあさんはにっこり笑って言った。
「うちに来ない?」
思わずおばあさんをを凝視してしまった。 初対面の相手にこんなことを言うなんて正気だろうか。
「…いいんですか」
「もちろんよ。困っている人を放ってはおけないわ」
訳があるんでしょうとおばあさんは茶目っ気たっぷりにウインクをして見せた。
どんだけ男前なんですかおばあさん。
本当はぬーべー夢にしたい。このおばあさんはまことの婆ちゃんだといい。
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