反抗心


シキが戻ってきた途端、アキラは無理矢理組み敷かれた。
否応なくベッドに連れていかれ、肩を強く押されると、為す術もなく押し倒されるしかなかった。
意味が分からない。
この男はいつだって唐突で、脈絡なんか全て無視し、言動の理由が分からないから許せない。
「な、んなんだよ!」
アキラにかぶさる姿勢になったシキは、アキラの耳元で囁く。
「何だと思う?」
くつくつと楽しそうに笑う声がして、そのたびに漏れる息がアキラの耳朶をくすぐる。
「やめろっ」
「それでやめる馬鹿がいるのなら是非お目にかかりたいものだ」
言って直後、アキラの耳をざらりとしたものが撫でる。柔らかい部分を弄ぶように歯を立てた。
「……っ」
気が僅かに逸れる程度の痛み。舌が耳孔に浅く侵入する。アキラの気が逸れた一瞬に、シキはアキラのシャツを捲くり上げた。>
「やめ……っ」
抵抗の言葉は、胸の突起を強く摘まれて走った刺激に阻まれる。そのまま指で捏ねられれば、痺れるような感覚に声が漏れそうになる。シキはアキラの首の辺りに顔を押しつけ、ねとりと首筋を舐め上げる。
「はな、れろ」
シキの髪の中に手を入れて引き剥がそうと力を込める。しかしシキが空いている方の手でその手を掴み、両腕を片手で纏めてアキラの頭の上辺りでシーツへ押さえ付けた。シキの強い力にアキラの腕は悲鳴を上げる。
「放せよ」
身じろぎしても逃げることが出来ない。そんなアキラに構うことはせず、シキは執拗にアキラの、いまや赤くなっている胸の突起を舐める。ぴちゃりと小さな音がする。時折歯を立てられて痛みが走る。アキラは歯を食い縛って痛みと慣れぬ感覚に耐えた。
「どうした? やけに静かだが。諦めたか」
「ふざけるな!」
シキに与えられる刺激が途切れた隙、アキラは怒声とともに思い切り膝を蹴り上げた。だが必死の攻撃もシキに容易く止められてしまう。
顔を上げたシキの視線と、それを睨み付けるアキラの視線がぶつかり、絡み合う。緊張に包まれた空気の中、先に表情を緩めたのはシキだった。
ふっ、と微かに笑む。その表情はアキラにとって意外にも、嘲りも、悪意すらも含んでおらず、緊迫の瞬間でありながら柔らかい。ごく自然な、他者に対する負の感情を含まない微笑。むしろ内側へ向いた負――悲しげな。
そんな時間は長続きせず、たちまち不透明な笑みに戻る。
「……離れろよ」
「それでいい」
抑揚のない声で吐き捨てて、シキは行為を再開する。つい先程の奇妙な違和感は幻のように消えて。


「っ、あ……んっ……」
愛撫とは決して呼べないような暴力的な接触は、それでもアキラを追い詰める。胸の突起は両方とも痛々しいほど赤い。溢れた生理的な涙はアキラの顔を濡らしていた。立ち上がった熱がズボンの前を押し上げて、色を濃くしている。
手はいまだ捕まえられていて抵抗もままならない。シキに与えられる刺激のなすがままで、手から、体から力が抜けていく。
「もう限界だろう? 言え。泣いて請えばいかせてやる」
「誰、が、そんなこと……っ、はっん……」
シキの指がアキラの雄を服の上からゆるゆると撫でる。唇を噛んでも抑えきれない声がシキを楽しませる。
そんなことは分かっている。だからといってアキラはおとなしく従う気にはなれない。最後まで屈さない。それがアキラに残された自尊の砦だ。それまでが崩れ去った時、おそらく理性まで失われてしまう。
「強情だな」
諦めたようにシキが言う。離れてくれるのかとアキラがホッとしたのも束の間、シキはアキラのズボンを下着ごと一気に脱がせた。覆う物を取り去られて、粘ついた液に塗れている下肢が嫌でもアキラの目に入る。
「っ、くっ……」
屈辱に目を閉じそうになる。だがシキがそれを許さない。
「だらしがないな、こんなに濡らして」
シキに触れられて感じている自分を完全に否定できないことが悔しい。
「見ていろ、お前自身の情けなく、無様な姿を」
臍に穿たれたピアスをシキの舌がなぶると、一際甘さを帯びた声が出る。
「ん、ぁ……あぁっ!」
舌は徐々に下がっていき、立ち上がりきったアキラの雄に掠める程度に触れた。どくりと先走りが溢れ出て幹を伝い、さらに奥へと伝う。
突然、シキはアキラの後孔に指を突き立てた。
「い、っあ……ぁ、や、めろっ……」
遠慮の欠片もない侵入に、アキラの中がシキの指をぎちぎちと締め付けた。内側をぐるりと掻き混ぜて、たちまち指が二本に増やされる。ばらばらに動く指によって生じる圧迫感は、快感からは程遠い。
「ぐ、っ、ぅあ……っ」
「良いものをやろう。上質な品だ」
シキが不吉に低い声を出した。指が引き抜かれる。
「っは、はぁ……」
まともに息を整える暇も与えられず、窄まりに冷たいものがあてがわれる。

次の瞬間。

「う、ぁ、あぁぁァっ!」
冷たく硬いものがアキラの中に無理矢理押し入ってくる。まともな声を出せない。抗議すら出来ない。
内側から引き裂かれていくような苦痛。内臓が圧迫され押し出されるかのような痛み。
尻を若干高く持ち上げられる。とぷり、と液体が揺れる音がした。
嫌な予感を解析するまでもなく実感させられる。
 体内を液体が満たしていく。
「なに、を……!?」
「俺のとっておきの酒だ。味わえ」
「な……ッ」
熱い。
体が熱い。下腹部から始まって、瞬く間に熱が広がっていく。
なんとかビンが後孔から外れるようにあがく。
「は、っず、せ……」
「そうだ」
意味が分からない。痛みと熱に思考を奪われて何も考えられない。
ビンはシキに抜かれた。液体がこぽりと溢れ出る。
シキはアキラの耳元に口を寄せた。
「抗え」
限りなく優しい声音で囁く。慈愛に満ちた、
「抗い続けろ、永遠に」
刻み込むために繰り返す。シキが言い終えてすぐに、柔らかいものがアキラの頬を掠める。
「喚け」
アキラに言葉を落として、直後、シキは琥珀色の液体を流し続ける窄まりに己の熱をあてがった。
「ひ、ぁ……」
アキラは言葉も発せない。熱い、圧倒的な質量がアキラを貫く。例えようもない圧迫感がアキラを襲う。
ぐちゃぐちゃと、べちゃべちゃと、アキラを満たす液体が音を立てる。
 痛い。熱い。
アルコールが熱を駆り立て、卑猥な音が耳からアキラを犯す。音に煽られて、萎えきっていたアキラ自身にも新たな熱が灯る。
半ば叩きつけるようなシキの激しい律動は、アルコールの助けを借りてか、知らぬ間に痛みに甘さが混じり始める。シキが動くたびにぬぷりとブランデーが流れ出る。
「あ……」
シキの熱がとある一点に当たったとき、ぴりと強すぎる快感が体をめぐり、アキラは弓反りになった。
途端、中にあるシキを強く締め付けた。
「……っ」
シキの吐息に僅かに混じった声。滲み出ているのは苦痛ではなく甘さ。
シキの動きが一層速くなる。貫くたび、確実にある一点を捉える。知らぬうち、アキラの腕はシキの背中と首回されていた。時折互いに互いの髪を掻き混ぜる。
「は、ァ……ん、ぅぁ、あぁっ!」
最奥を突かれると同時に臍のピアスを撫でられて、込み上げてきたものに耐え切れず、アキラは達した。アキラの中が締まって、ほぼ同時に体内にシキの熱い液体が注がれる。
荒い息を吐く。深呼吸をすれば肺を満たすのは青臭さと濃厚なアルコール臭。
ずるりとシキが外に出ていく。アキラの疲労は限界だった。体はべとべとで、精神は擦り切れる寸前。
シキは何事もなかったかのように身仕度を整えて出かけるようだ。
シャワーを浴びなくては。アキラは虚ろな思考で考えて、少しだけ目を閉じる。



「抗い続けろ、永遠に」
あれはきっと、シキがシキ自身に言ったことだ。



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