罰ゲーム


アレニル。拍手お礼でした





ばたばたと廊下を走る。
こんなに慌てていては年下に示しがつかないという考えが一瞬脳裏を過るが、そんなことには構っていられない。
「アレルヤっ」
様子を伺うこともせずに、ばんっ、と扉を開ける。いつもの私服でベッドに腰掛けているアレルヤの姿があった。
「あれ、ニール。どうしたんですか、そんなに慌てて」
にこにこと優しげに笑ってくるアレルヤに、ニールはほっと溜息を付いた。安堵と同時に怒りがふつふつと湧いてくる。
「お前、なぁ……」
ひたひたとベッドに歩み寄る。アレルヤがニールが座りやすいようにとベッドヘッドの方へ少し腰をずらした。出来たスペースに腰掛ける。
「何ですか?」
にこり、と毒気なく笑い掛けられれ小首を傾げられてしまえば怒る気も失せてしまってニールはぐったりと脱力感を覚えた。
「怪我、したって聞いたから」
「これのことですか?」
ひらり、と目の前にアレルヤの大きな右手がかざされた。そこには白い包帯がぐるぐると巻き付けてあって痛々しい。思わず顔を歪める。
「帰ってきてみたら、お前が怪我したって聞いて……」
アレルヤもニールも地上での単独ミッションだった。MSによる戦闘ではなくマイスター生身での偵察任務。ニールが後から戻ってみれば、アレルヤが怪我をしたというではないか。
「大したことないから平気ですよ」
余程悲痛な顔をしていたのだろう、包帯のない左手がニールの頬を包み込む。
「なら、いいけどさ。……痛く、ないか?」
アレルヤの右手首をそっと撫でる。
「大丈夫ですって。もう痛くないし、ちょっと出血は多かったけど神経とか骨とかも全部無事だし……」
「馬鹿かお前は」
なんてことはないと微笑むアレルヤの言葉を遮り、思わず怒鳴りつけてしまう。
「え……」
きょとん、と呆気にとられているアレルヤが恨めしい。
「心配、したんだぜ……?」
掴んだアレルヤの右手を少し持ち上げ、顔を近付けて微かに頬擦りする。アレルヤははっとした表情でニールを見た。
「小さい怪我だろうがなんだろうが、俺は心配なんだ」
人間の身体はMSより遥かに弱く脆い。瓦礫に埋もれた家族を思い出してしまってから、一つ首を振って回想を捨てる。
「ごめん、なさい……」
「お前が謝ることじゃない。俺の八つ当たりでもある」
アレルヤの傍に居て守ってやることができなかったことに苛立っている自分が居る。掴んだアレルヤの右手の甲を掠めるように撫でてから放してシーツの上にゆっくりとおろした。
「けどさ、お前を心配してる奴がいるってことは忘れるなよ?」
真っ直ぐ視線がじっとニールを見て、頷いた。生真面目な表情にかえって緊張が和らいだ。
「あーあ」
身体を斜めにして隣に座るアレルヤにこてんと寄り掛かる。がっちりした身体はニールの体重を受け止めてもびくともしない。それに安心して肩に頭を預ける。
「どうしたんですか?」
「お前に振り回されてばっかだな、って思ってさ」
「そう? それは僕の台詞だと思うけど……」
「そんなことないぜ?」
視線を流して横目にアレルヤを見る。ぽぅ、とアレルヤの頬がほんのり赤く染まる。何だか可愛くて、悪戯心を起こさずにはいられない。
「よしっ」
身体は密着させたまま首だけ起こしてアレルヤの背中をぽんと軽く叩く。
「次に俺を心配させたら罰ゲーム、な?」
「えぇっ!?」
大袈裟なくらい肩を跳ねさせて驚くアレルヤが愛しい。
「な、何を……」
「何にしようかねぇ」
くつくつと笑いながら考えるフリをするとアレルヤは眉を八の字にした。本気で怖いらしい。頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
そして横からアレルヤの顔を覗き込み、上目遣いに見つめるようにするとアレルヤの喉がごくりと上下した。アレルヤの視線がニールの唇の動きを辿る。

「キスで窒息死、な?」

一瞬、アレルヤの表情が固まってから、間の抜けた声が響いた。
「はぁっ!? 何なんですか、それ……」
二人して顔を見合せ、肩を上下に揺らして笑う。



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