清く正しく初々しく


ニルティエ




「ティエリア起きてるかー?」
一日のトレーニングメニューはこなし、ミッションの予定はなく招集もない。読みたい本は特にないし、まだ夜八時だ、眠くもない。無趣味なわけじゃないが、部屋に引きこもりたいわけでもない。
そこでロックオンは恋人の部屋を訪ねた。いつものように声を掛けただけでドアを開けてしまおうと手を掛ける。
「開けるなっ」
鋭い声が聞こえてきてロックオンは思わず手を引いた。ティエリアは元々気が強いが、ここまで厳しい調子で感情を顕にすることは少ない。
「どうかしたのか?」
「何、でもない」
訝しんで尋ねれば答えは帰ってくる。深刻な状態というわけではないのだろう。着替えの最中とか?
世の中には悪戯心、というものが確実に存在する。
ロックオンはにやりと笑うとドアを一気に開けて部屋に踏み入った。
「入るなと、言っただろうっ」
ティエリアはベッドに腰掛けて目を丸くしている。だが、それだけだ。特に何かを隠したり、珍しいことが起こったりしている様子はない。ロックオンは首を傾げながらティエリアに近寄った。ティエリアの隣に座る。
「出ていけっ」
ティエリアは滅多にお目にかかれないような眉をつりあげた表情で怒号を上げた。
「何でだよ? 別に何もないじゃ……」
ロックオンが疑問を延べ始めたその時。

「っ、ひっく」

ティエリアが肩を跳ねさせると同時に詰まったような高い声を出した。
「……しゃっくり?」
目をぱちぱちと瞬かせてティエリアを見つめると、ティエリアの常は白い頬がほんのりと赤く染まった。
「へ、んな所を、見るな」
視線を逸らしながら強く言おうとした台詞さえしゃっくりで途切れてしまっては迫力も何もあったものではない。ロックオンは声を出し腹を抱えて笑った。
「笑う、なっ」
「ははっ、悪い悪い」
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭う。
「けどよ、そんなによそよそしくしなくたっていいだろ?」
「してません」
「してるって」
強情なところが欠点でもあり可愛くもある。ロックオンは軽く肩を竦めると今度は優しく笑い掛けた。
「しゃっくりの治し方、知ってるか?」
「放って、ひっく、おけば治るから問題ない」
「でも早く治ったほうが良いだろ?」
ティエリアは渋い顔をしてからこくりと頷いた。
「いい子いい子」
子供をあやすように頭を撫でてやれば今にも怒りだしそうになるのを立て続けに声を掛けて抑える。
「方法は二種類あるぜ?」
「二種類?」
好奇心の強いティエリアは目の前に提示される餌に弱い。
「あぁ。一つは息を止める」
「くだらな……」
「もう一つは……」
赤い瞳がロックオンを見つめてくる。それに気付いてくすりと笑い、

「んぅっ!?」

素早く顔を近付けるとティエリアの柔らかな唇に自分のそれを重ねた。角度を変えて啄むようなキスを何度も繰り返す。最初は見開かれていた目がとろんとし、目許がほんのり染まってきたところでゆっくり顔を離した。
「どうだ?」
口をぱくぱくさせているティエリアの顔は真っ赤だ。暫くその状態を保ってから、ティエリアははたと手のひらを口に当てた。
「……止まった」
「おー、めでたいな」
茶化すようなロックオンの言葉に手のひらを外すと再び眉をつりあげる。
「な、な、何だったんですか、二つ目の方法は」
「ん? 驚くこと。やっぱり可愛いなぁ、お前さんは。息、ちゃんとしないと窒息しちまうぜ?」
にやにやと笑う。耳まで赤くなったティエリアはそそくさとシーツに潜り、ぼふっと枕に顔を埋めた。



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