愴愴


ニルティエ。暗め







「ティエリア、ちゃんと飯食ったか」
夕食時、わざわざティエリアの部屋にやってきてまでロックオンが訊ねたのはそんなことだった。
「食べました」
素っ気なくそれだけ言ってドアを閉めようとしたが、ロックオンの足に妨げられてドアは閉じる動作を中断した。
「どうせ食べてないだろ」
「……食べたと言っている」
「嘘吐くな」
「こんなくだらないことで嘘を吐いてどうする」
吐き捨てると、にやりと笑ったロックオンがティエリアの腕を掴んだ。
「だったら食堂に行こうぜ。くだらないなら、二回食べたって問題ないだろ?」
言いくるめられ、ついて行かざるをえなくなる。そんないつもの風景。



食堂に着くなり、ロックオンはティエリアの分まで食事を運んできた。
「食べろ」
「肉は好きじゃない」
「魚ならいいのか」
「同じことだ」
ティエリアは付け合わせとして添えられているポテトをフォークで刺し、いかにも不味そうに口に運んだ。
「あなたに監視されていなくとも、僕は必要な栄養は毎日摂取している」
「まずさ、その『摂取』ってのをやめろよ」
ロックオンはメインディッシュである牛肉にフォークを突き刺し、持ち上げた。ティエリアの前に差し出す。
「何か問題が?」
「食事は楽しんでするもんだ。口開け」
ロックオンの意図するところを理解し、ティエリアは眉をひそめた。
「恥ずかしい真似を……」
「ほっといたら何にも食べなくて、ますます細くなるだろ。赤ん坊に飯を食わせるのと同じだ。恥ずかしいことなんかない」
あーん、と言われ、肉で唇を突かれ、諦めて渋々口を開けた。入ってきた肉を噛み締めると、中から肉汁が溢れた。ごくりと飲み込む。
「僕を赤ん坊と一緒にするな」
「だったらその証拠に俺の言うことをきけ。三食食べる、ちゃんと寝る」
「あなたには関係ないでしょう」
「大有りに決まってんだろ」
ロックオンに軽く小突かれ、ティエリアは睨みつけた。
「怖い目すんなよ。俺はお前に元気でいてほしいだけだ」
ぽんぽんと肩を叩き、ロックオンは立ち上がった。
「残さず食べろよ」
「……もう行くんですか」
「俺に何か用事でもあるのか?」
「そういうわけでは……」
ティエリアは言い淀んだ。一連のティエリアの言動を見ていたロックオンは、再び椅子に座った。
「そうだな、楽しい食事には話相手が欠かせないな」
笑いながらティエリアを眺め、くだらないことを話しているロックオンを視界の端に捉えながら、ティエリアはスープに口を付けた。








「ティエリア、ごはん食べた?」
廊下ですれ違ったフェルトがティエリアに控えめにたずねた。
「あぁ」
素っ気なく答えれば、「そう」とだけ言ってフェルトは去っていく。
煩く言う奴はいないから、三食きちんと食べて栄養を摂る必要はない。規則正しい生活をする必要はない。


煩く言う彼は、もうここにはいないのだから。




(食べずに餓死したとしても、何の問題もない。)



|


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -