休息日


ニルティエ







太陽は煩いものだ。
ティエリアは立木の下、木漏れ日を浴びながら本を捲る。


地上に下りたプトレマイオスのクルー一同は王留美所有の建物に滞在していた。有り得ない程の金持ち、というのは実在する。隠れ家の一つにすぎないにもかかわらず、設備は充実している。プール、温室、ジャグジー等々、大体のものが揃っている。
ティエリアは広々とした庭園の、一本の木に凭れて座っていた。
静かだ。
ページを捲ると紙が擦れる音がする。僅かな風に咲く花が揺れる。
さらに読み進めようとして、唐突に右隣に現れた気配に驚く。咄嗟に銃口を向けた。
「おっと。俺だよ」
「……貴方か」
両手を頭の上まで上げ、掌をひらひらさせているのはロックオンだった。銃を収める。
「静かに近付かれると、驚く」
「悪かったな」
ロックオンは屈んでティエリアの読む本を覗き込んだ。
「で、一人で何してんだ?」
「見ればわかるだろう」
「本を読んでるってのはわかる。そうじゃなくて、地球まで来て何やってんだって話」
ロックオンは呆れたように肩を竦めた。
「もう少しやることがあるんじゃないのか」
「例えば?」
「宇宙じゃできないこととかな」
そう言って茂みを指差す。見えはしないが、その方向にはプールがあるはずだ。
「ミス・スメラギ達みたいに泳いでみるとか」
「遠慮させてもらう」
「泳げないのか?」
「興味がない」
ティエリアの素っ気ない返事にロックオンは大きく溜息を吐いた。
「んで、何読んでんだ?」
ロックオンが会話をやめるつもりがないのを見て取り、ティエリアはぱたんと本を閉じた。表紙をロックオンへ向ける。題名は『Une saison en enfer』すなわち『地獄の季節』。
「楽しいか」
「別に」
「だろうな。お前が見知らぬ他人の文学との絶縁に興味を持つとも思えない」
「何世紀も前の遺物だ」
ティエリアの様子にロックオンは首を傾げた。
「じゃあなんでこんなところでそんな本読んでんだ。折角の白い肌が焼けちまうだろ」
「何か問題でも」
「いーや。別に何もない」
ロックオンはティエリアの隣に座った。草の匂いが漂う。
「ただ、その白い肌、俺は結構気に入ってんだけど、な」
ロックオンは言うなり、ティエリアの唇に自分のそれを重ねた。
「――ッ」
その拍子に取り落とした本が音を立てる。
「突然何を……」
ロックオンを振り払って立ち上がる。
「何って、キス」
何かを言いかけるティエリアの唇をロックオンのそれが塞ぐ。木の幹とロックオンの体に挟まれ、身動きをとることが出来ない。
「やめ……っ」
戸惑っている間にロックオンの舌がティエリアの唇を抉じ開ける。うっすら開いた隙間からぬるりと侵入する。
「な――っ」
歯列をなぞり、逃げるティエリアの舌を追い、絡みつく。
「ん、ふっ……」
舌を吸われ、口腔でぴちゃぴちゃと音が響く。それが直接体内に伝わり、ティエリアの頬は紅潮していく。上顎を舐められる度、甘い刺激が走る。声も出せずに溜まっていく、痺れ。
「くる、し……」
絶え間なく続くキスの、僅かな隙間に言葉を紡ぐ。ロックオンは唇を離した。途端、力が入らなくなった膝がくずおれる。木に体重を預けるティエリアを、ロックオンが支える。
「悪いな。大丈夫か?」
ロックオンは耳元で囁いた。
「悪いと、思うなら、するな」
荒い息をしながらティエリアは言った。唇は赤く色付き、艶やかに光る。口の端から一筋の唾液が伝う。ロックオンはぺろりと舐めとった。
「まぁまぁ」
「ここをどこだと思っている」
「警備が行き届いて安全な庭」
「外なんだぞ」
「たまにはいいじゃねぇか」
ピンクのカーディガンのボタンはいつの間にか外されていた。ティエリアのシャツは捲り上げられ、ロックオンの大きな手が素肌を撫でる。
「何を……」
「わかってるだろうが」
「やめろ……っ」
胸の尖りに触れられる。
「やめろって言ったって、もう硬くなってる」
指先で転がされればじれったいような感覚が体を支配していく。
「や、め……」
「もう諦めろよ」
「あ――」
硬くなった突起を指で抓まれ、体はぴくりと反応する。抑えきれない声が漏れた。こりこりと刺激を与えられると、耐えるのも辛い。
「あ、ぁ……ここ、外、なのに」
「いつもより感じやすいな。外でやるほうが感じる?」
「――っ」
ティエリアは顔を背ける。
「自然な重力下でのセックス、ってのも悪くないだろ?」
ロックオンは地面に膝をつき、ティエリアのパンツの前を寛げた。
外気に触れたティエリア自身がぴくりと反応を示す。既に硬くなり始めているそれを、ロックオンは満足そうに眺めた。
「い、や……」
顔を背け、真っ赤にしたティエリアがふるふると体を震わせている。
ティエリアの清廉さは今に始まったことではない。外見が美しいのは勿論、心も純粋そのもので、穢れを知らない。その気高い精神が、ロックオンは好きだった。ティエリアの体はこういった行為に慣れていなくて初々しい。外での行為など、知るはずもない。
羞恥に今にも泣きそうなティエリアを見ていると罪悪感が募る一方で、もっと見てみたい、と思うのは無理からぬことだ、とロックオンは思う。
「ごめんな」
ティエリアの震える薄い体をぎゅうと抱きしめた。
「ロック、オン……」
消え入りそうな声で名前を呼ばれる。
「大丈夫だ」
涙が溢れそうになっているティエリアの目尻を親指で拭い、宥めた。それで少しは落ち着いたのか、ティエリアの震えが小さくなる。
「誰も来ない。誰にも聞こえない」
「え?」
「大きな声を出さなければ、平気だ」
「そんなっ。せめて、せめて中で……ひぁっ」
ロックオンの指がティエリア自身に絡む。ティエリアが体を強張らせた。
「だ、めだ。やめろ……」
懇願はロックオンの耳には届かない。ロックオンの服を掴んで引き剥がそうにも、ティエリアの力ではびくともしない。ゆっくりと手を上下に動かされると、だるい甘さが下半身にたまっていく。
「ん……ぁ……」
必死で声を抑えようと、ティエリアはロックオンにしがみついた。
「いやぁ……」
脳を甘さが犯していく。拒絶の声は段々弱弱しくなっていく。それでも首を振り、拒絶し続けるティエリアの姿に、ロックオンは愛撫を強めた。袋を甘く揉みしだくと、ティエリアが背を反らす。
「や、だ、もう……」
「もう?」
「で、る。汚れる、から……っ」
ティエリアのそれはすっかり勃ち上がり、限界を訴えている。
「いいぜ、出せよ」
ロックオンは屈むと、ティエリア自身を口に含んだ。
「え、ぁ、何……あぁっ!」
突然のことにティエリアは混乱した。柔らかい粘膜に包まれた自身が、歓喜に震える。
「き、たないから……」
「そんなことないだろ。全部飲んでやるから、出せ」
「そ、こで、喋るなっ」
空気の振動さえ、ティエリアを煽る。
「は……ん、むっ……」
ロックオンの息遣いと水音が聞こえる。先端を強く吸われ、ティエリアは呆気なく欲望を放った。
「は、ぁ……」
とめどなく溢れる白濁を、ロックオンはごくりと飲み込んだ。その光景を見るに忍びなくて、ティエリアは空を仰いだ。
途端、視界に入るのは新緑と、その隙間から見える青空。そして降り注ぐ陽光。春の麗らかな風が通り過ぎ、鳥の鳴き声が聞こえる。ざわめく木々。
「もう、やだ……」
ひくり、とティエリアはしゃくりあげた。恥ずかしい。あまりに開放的な場所であることを思い出す。そんな場所で達してしまった自分の、はしたなさが身を切る。
「やだ、って言われてもなぁ」
呆けているティエリアの手を、ロックオンは自分自身に導いた。そこは、服の上からでも分かるほどに存在を誇示している。その硬さに驚いて、ティエリアは手を引っ込めた。
「大丈夫、じゃないですか」
「ない」
ロックオンは断言した。
「可愛いティエリアを見てて、耐えられるわけないだろ」
「わかり、ました」
ティエリアが怯えた目で言う。
「僕は、どうしたらいい」
「少しだけ、入れてもいいか?」
ティエリアはおそるおそる頷いた。
「悪い」
謝って、頬に唇を落とす。
「地面の上じゃ痛いよな」
「そんなことは……」
「強がるなよ」
ロックオンはティエリアをひょいと抱き上げ、自分が木の幹に寄りかかった。膝の上にティエリアを乗せる。同時に、ティエリアのパンツを下着ごと下ろした。
「ロックオン……」
振り返るティエリアの瞳にはいつもの自信がない。
「大丈夫だ。顔が見えなくても、俺はここにいるから」
左腕を前に回し、ティエリアを抱きしめる。右手を自分の口に含んで、指を湿らせた。
「足、開け」
「だが……」
「そうしないと、続きが出来ないだろ」
ティエリアの膝を立たせ、両足を大きく開かせる。渋々従ったティエリアは、顕わになった性器と固い蕾を風に撫でられて、身を引き締めた。心もとない。
ロックオンは隠れた窄まりを手探りで見つけ、曲げた人差し指をぐいと入れた。
「っ……」
「痛いか?」
「平気だ」
辛いはずなのにティエリアはいつでも強がる。
「それより、早く……」
先を急ぐティエリアは珍しい。
「外だから、恥ずかしいのか?」
ティエリアはしばらく黙り込んでから、微かに頭を縦に動かした。
「大丈夫だ、誰も見てない」
「でも……っ。早くしろ」
ティエリアの腰が揺れる。自分から、ロックオンの指を飲み込もうとしていた。
「おい」
「はや、く……」
ティエリアがロックオンを誘う。その一方で、異物感に身を捩る。
ロックオンは指を二本に増やし、三本に増やした。性急にティエリアの後ろの蕾を解していく。
「もう、平気だ。だから入れて……」
「駄目だ」
強がるティエリアをロックオンは拒んだ。
「お前の可愛いここは、狭いから、な」
入れた指をばらばらに動かし、ぐるりと掻き混ぜる。指がとある一点に触れ、ティエリアは大きく喘いだ。
「平気、だから。だから、ロックオンの、大きいの、入れてください……っ」
「ったく……俺をこれ以上煽るなよ……本当に大丈夫か?」
「もんだい、ない」
指を引き抜く。体温の上がったティエリアがロックオンに寄りかかる。
「入れ、ろ」
「淫乱みたいだな」
ロックオンが苦笑すると、ティエリアは勢いよく振り返った。紫の髪がロックオンの顔を打つ。ロックオンを睨み付けた。
「そんなことな、い……あ、ぁ……っ」
ティエリアの体を少し持ち上げると、ロックオンはティエリアの解けた蕾に自身を宛がい、先端を埋めた。
「く……ぅん」
苦しげな声をあげ、指が地面の草を毟る。青い匂いが広がる。
「ほら、やっぱり辛いだろ」
「もんだいない、から、離せ」
ティエリアがロックオンの腕を振り解こうともがく。
「そんなことしたら……」
ロックオンの制止は間に合わず、ティエリアを拘束する腕が緩む。
途端、ティエリアの体重がかかり、ロックオン自身がティエリアの中を一気に押し広げた。骨格が軋む様な急激な圧迫感。
「――っ」
声にならない悲鳴をあげ、口を開ける。酸素を求めて喘ぐ。
「ここは、地球だから重力があって、手を離せば下に……っ、ティエリア、力抜、け。きつすぎる」
「む、りだ」
「だか、ら言っただろうが」
「あなたの、が、大きいのがいけない、んだ……っ」
「無茶言うな」
ロックオンは手をティエリアの前に回し、若干勢いを失っているティエリア自身を掴んだ。先端を押し込むように刺激する。
「何、を……」
「だから、弛めろ、って……」
ティエリアの意識が前からの快楽によって分散された。後ろの締め付けが僅かに緩んだ隙に、下から一点を突き上げる。
「ひ、ぁ」
ティエリアの声に再び甘さが混じり始める。周りを気にしてか、抑えた声がかえって色っぽい。
「動いて平気か」
返事をしようにも言葉にならず、ティエリアはこくこくと頷いた。
ロックオンは了承を受け取り、動き始めた。ゆるく中を混ぜるように、円を描くようにすると、ティエリアの内壁が絡み付いてくる。同時に前を弄ると、ティエリアがびくびくと震えた。
「両方は、や、め……出ちゃう、か、ら……っ」
「いけよ」
「だ、って、一緒に……」
「俺も、もう」
ティエリアのしなやかな腰がロックオンの動きにあわせて揺れる。前を強めに握ると、ティエリアの中が収縮した。柔らかい裡がロックオン自身を締め付ける。
「くっ……」
耐え切れず、ロックオンはティエリアの中に白濁を注ぎ込んだ。
「あぁっ……っ、ん……は……」
熱い欲望を受け、ティエリアも絶頂を迎えた。どくどくと、際限なく吐き出されるティエリアの欲望を、ロックオンは手のひらで受けた。
ティエリアが薄い肩で息をしている。はぁはぁと荒い息が行為による疲労を如実に表していた。
「……悪い」
「そう思うの、なら、最初からこんなところで、するな」
ロックオンは片目を眇め、平謝りに謝った。取り出したハンカチでティエリアの前を拭う。ティエリアは黙ってじっとしていた。
ずるり、とロックオンの欲望を引き抜く。その刺激にティエリアがびくりと震え、中からとろりと白濁が溢れた。
大体拭い終え、二人は服を整えた。
「さて、と。部屋に戻るか」
「……そうだな」
不機嫌そうな表情でティエリアは立ち上がろうとし、よろけて幹に手をつく。
「辛いか?」
ティエリアの様子を見たロックオンはティエリアをひょいと横抱きに抱き上げた。いわゆる姫抱き、というやつである。
「相変わらず軽いな」
「何をする」
「歩けないだろ」
「――っ。お前のせいだ」
「だからぁ、悪かったって」
飄々としているロックオンに疑いの眼差しを向けるが、ロックオンはどこ吹く風。
「部屋についたら、中、洗ってやるから我慢しろ」
「それくらい自分で出来る」
そう言いながら、腿を伝う液体の感触に、鳥肌が立ちそうになる。





玄関の近くまで行った時。
「あら? 探してたのよ、二人とも」
スメラギにばったり出くわした。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
マイスターの異変に、スメラギは青い顔をした。
「いや、ちょっとそこで転んで足挫いちゃったらしい。大したことはなさそうだから平気だ。な、ティエリア」
「……あぁ」
「そうなの? ならいいけど……だったら用事はあとでいいわ。部屋でゆっくり休んで」
「どうもー」
ロックオンは言って、玄関をくぐった。
「よく、そんな嘘八百を」
「じゃあ正直に言った方が良かったか? セックスして、激しすぎて、足腰が立ちません、って」
「っ」
ティエリアは苦々しげに口を閉ざした。
「あ、そうそう」
後ろからスメラギの声が追いかけてきて、ロックオンは歩みを止めた。
「ティエリアったらホントにお姫様みたいね」
スメラギの笑いを含んだ言葉に、
「……万死に値する」
ティエリアは低い声で答えた。
「こわーい」
スメラギはそそくさと立ち去っていく。
「――最悪だ」
吐き捨てるようにティエリアは言った。
「でも、気持ち良かっただろ」
「知るか!」
ロックオンがティエリアを抱えたまま階段を登る。
「部屋に着いたらお風呂に入れて差し上げますよ、お姫様」
「これ以上ふざけたことをしたら、ヴァーチェでデュナメスごと破砕する」
「照れ隠ししたって可愛いだけだぜ?」
ロックオンは鼻先でティエリアの前髪を除け、額にキスをした。



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