プレゼント


「おーっす越前、おはよ」

 午前六時。学校も部活も休みの今日、何故かこんな時間帯から先輩が来た。紺色のコートに身を包んで、首に巻かれたマフラーや髪には雪が少し積もっている。

「圭先輩? こんな時間に珍しいっすね」
「んー? いや、近く通りかかっただけなんだけどな?」

 圭先輩が吐き出した息が、白くこごる。はぁ、と空いた手に息を吹きかけていた。手袋もつけず、傘もささず、こんな時間にどうしたというのだろう。

「というか先輩、寒いし中入って暖まってったら? 見るからに寒そうだし……」
「いーよいーよ、これ渡せたらじゅーぶん」

 ほい、と目の前に小さな紙袋が差し出される。

「……何すか、これ」
「メリクリ?」

 そう言いながら首を傾げる先輩。……ちょっと期待した、なんて言わない。
 紙袋を受け取れば、ぽん、と頭に手を乗せられて。

「そんで、おめでとう?」

 わずかに期待していた言葉を唐突に投げかけられたら――

「ありゃ、越前顔真っ赤」
「気のせい!」

 喜んでいる事が照れ臭くなって紙袋で顔を隠すも、気にしないとばかりに頭を撫でられた。

「うっそだー。ま、いいけど」

 そんじゃ、と踵を返す先輩。

「え、もう帰るんすか」
「言ったろー、それ渡すだけだって」
「それは……そう、だけど」
「ま、明日には会えるんだし」

 そう言って立ち去ろうとするから、思わず腕を掴んで引き止めてしまって。

「ちょっと待ってて!」
「お、おう?」

 呆然とした先輩を置いて、家の中に戻る。自室に入って、普段使っている手袋をひっ掴んで、また玄関へと戻って。
 そして、手袋を先輩に差し出した。

「これ!」
「……手袋?」
「寒そうだから! それだけ! 明日、絶対来て返してよね!」

 手袋を受け取った先輩は、顔を眉を下げて笑って、「ありがとう」の一言を告げ、帰っていった。





『あ、越前』
「なんすか」
『誕生日、おめでと』
「……どうもっす」
『ありがとうくらい素直に言えよこのー』
「……先輩の誕生日、楽しみにしててよ」
『おー? 楽しみにしてる。……越前、お前今どんな顔してる?』
「普通の顔」
『真っ赤なんじゃねえの?』
「先輩こそ」
『へへ、あたり』
「えっ」
『え?』





「ちなみに中身って」
『ないしょ』
「開けるよ」
『どーぞ?』
「……クッキー?」
『そ。何がいいかなーって考えたけど、贈れるもんねえから作った。味見はしたからな?』
「不安なんだけど……あとこの紙な、!?」
『お、見つけた? 俺特製の【一日テニスする券】と【一日好きにする券】。好きな時に使えよーただし俺のみ有効な』
「……明日使うのは?」
『いいぞ。って早速使うのか。一年有効だぞー』
「置いとくのもったいないし」
『なるほど? いやわかんねえけど』




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