08 小さな嫉妬も恋煩い? 「旦那、いつまでも惚けてないで切り替えなよ」 「む、むう……分かっておるのだが……」 体育祭の一時が忘れられぬ。 団の色は違ったがあのように姫と接する事ができるとは……。 「ほら、そっちの角釘で止めて」 「う、うむ」 佐助から釘と金槌を受け取り、外れている場所を止めた。 「早くしないとこのクラスだけ文化祭まで間に合わないよ?」 「分かっておるのだが……」 「はぁ……仕方ないなぁ。ねーねー! なんか足りない物ないー?」 佐助が大きな声を出してクラスのみなに聞いた。 すると、学級委員だからか、それともただの祭り好きだからかせっせと働いていた慶次殿が振り向いた。 「釘が足りないから技術室から取って来てくれ!」 「りょーかい。旦那、行こう」 「う、うむ」 佐助に腕を引かれて俺も立ち上がり、教室を出た。 「どうしたのだ、急に」 「んー、ジュースでも飲んでリフレッシュしてもらおうと思ってさ」 「む? なぜだ?」 「旦那、姫さんのことばっかに集中してて全然進まないじゃん」 「なっ!? そそそそ、そんなこと……!」 「あるでしょ?」 「ぐっ……!」 確かに、姫に思いを馳せていたが……。 くそ、佐助にそのように思われていたとは! 政宗殿と同じクラスではくて、本当に良かった。 「あそこに自販機あるからなんか買ってきなよ」 「あ、ああ」 佐助は近くにあったベンチに座った。 オレンジジュースでも買うか、と思い自販機に向かおうと足を進めると一人、荷物をたくさん持った生徒がいた。 随分とたくさんの荷物を持っておられるのだな。 距離が遠く、体操服を着ていている上にあまりにも荷物が多すぎて性別が分からぬ。 ……なんとなく、背丈が姫と似ているような。 姫と同じくらいの背丈なのだから、やはり女子なのだろうか? いつか、あの大量の荷物を落とすのではないか? と思いながらも女子とは目を合わせられないので、俺は自販機に目をやった。 困っている人を助けずに目を逸らすなど、人道に外れていると思う。 しかし、俺が助けに行っても、目が合うと固まってしまい、結局は余計に困らせてしまうことは百も承知だ。 そう思いながら、小銭を入れようとしたその時、 「ぎゃーっ!!」 荷物を持っていた女子がそう叫び物が床に落ちた音が鳴り響いた。 待て。 ……今の声は……? 「旦那」 「うをっ!? 佐助、いつの間に!」 「そんなことより、あの子、姫さんじゃない?」 「う……俺も今気付いた」 「やっぱり? 派手にぶちまけたねー」 布やら釘やらが散乱しちゃってるよー。と佐助は姫の方を見た。 姫は、散乱したものに夢中で俺達に気付いていらっしゃらないようだ。 ああ、姫が困っていらっしゃる……! 「助けに行かねば……!」 自分が姫に近付いていい身分ではないという事はよく分かっている。 しかし、困ってる姫を放っておくことなど出来ぬ!! 約30m先に居られる姫に向かって走り出そうとした。 その時、姫の近くにある階段から何者かが下りてきた。 「みょうじ! 何やってんだ!」 姫に近付いたのが男だと分かり、俺の足は止まった。 「あー伊達君。あはは、運ぶのに手間取ってたら材料ぶちまけちゃったー」 「おせーと思ってたら、そんなことになってたんだなー」 「大体、学級委員だからって全部頼むのが可笑しいんだよ。一応女子なんだけど!」 「あ? お前、女だったっけ?」 「はあ!? 女だから!」 なにやら楽しそうに、伊達と呼ばれる誰かと話しておられた。 姫は、あの男とは仲が宜しいのか? 「まあ、んなことより、早く教室戻らないとみんなに怒られる」 「あーそうだね」 「ほら、持ってやるから渡せ」 ぶっきらぼうに言う様子がなんだか本当に政宗殿に似ている。 それが余計に気に食わぬ。 「わーなりちゃん、やさしー」 「なりちゃん言うな! もう持ってやんねー!」 「ちょ! 嘘! 伊達君、ほんとお願いします!」 「もう、言わねーよな?」 「……うん」 「なんだよ、その間。マジで持ってやんねーからな」 「もう言わないって! さ、早く行こ! みんな待ってるし」 そう言って、姫が荷物を持って立ち上がると、男が姫から荷物を奪った。 「あ、その角材貸せ。ささくれが刺さる」 「えー角材まで取られたら私の荷物不織布しかないんだけど」 「女に重い物とか危ない物を持たせられるわけねーだろ。…………なあ、今の俺って超格好良くねー?」 「……良いから行こー。早くしないと本気でみんなに怒られるよ」 「てめっ無視すんなよ! 今に見てろ! 格好良いって言わなかった事後悔させてやるからな!」 「従兄弟君の方が格好いいんじゃないのー? 私は近くで顔見たことないから分からないけど、みんなそうやって言ってたよ」 「おい! それ禁句だからな! 梵は別格なんだからよ!」 そう、二人は雑談しながら階段を上っていかれた。 ……なんだ、あの男は。 なぜ、姫とあのように仲睦まじく話して居ったのだ。 「旦那、残念だったねー」 佐助が俺の横に寄ってきて、ぽんと肩を叩いた。 「……佐助」 「ん? なに?」 「先程の男は誰だ」 「え、あーあれは、政宗の従兄弟の伊達成実だよ」 「政宗殿の親族か」 「あ、うん……あの、旦那?」 佐助が何か言いたげに俺を見た。 その表情は困っているようにも見える。 「なんだ」 「怒ってる……?」 「何を言って居るのだ。怒ってなど居らぬ」 なぜ、俺が怒らねばならぬのだ。 姫が誰と仲良くするかは、姫の自由なのだからな。 「……眉間にしわ寄ってるよ」 「気のせいだ」 俺は怒っておらぬ。 至って普通だ。 驚いたような、困ったような顔をしたままの佐助を放って、踵を返した。 (ただ、あの男は何れ潰しておかねばならぬと思っただけだ) [戻る] ×
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