BULLY | ナノ




3年になった時、私は完全に心を閉ざすことで自分の身を守っていた。



何をされても反抗しない。
何も言われても反応しない。
一点を見つめてことが終わるのを待つ。


それでいじめから自分の精神だけは守っていた。


話しかけられても応答しない私の姿勢は初めは生徒の怒りを煽ったようだが、次第に無反応の私に飽きてくる輩もいた。


やはりこれが一番正しい対処法だったんだと気づいた。
このいじめは卒業するまで続く。
私は確信していたためもう諦めた。
仕方ない。もうどうすることもできないんだから。
呪文が上手く発音できない私は戦うこともできないんだから。

リリーとセブルスがいてくれたらそれだけでよかった。
ふたりの前なら自然と笑顔が溢れるようになった。





地獄のような日々にも楽しみができた。



魔法生物飼育学だ。
もともと動物がすごく好きな私は選択するのに一切の迷いもなかった。

受けてみれば期待通りで、私を興奮させるような見たことがない生物を多く観察できた。
リリーが守ってくれていたため、ポッターたちに邪魔をされることなく受けることができた。





「……リリーは」
「同じ部屋の子に呼ばれて今日はいけないって」
「そうか」



灌木の茂みに先についていたセブルスの隣に腰を下ろす。
そして栞をはさんでおいた本を開いた。



セブルスはまた闇の魔術についての本を読んでいた。
この前リリーにそれを読んでいるところを見つかって口喧嘩になっていたが、セブルスはまだ懲りていなかったらしい。


闇の魔術にしろ普通の魔術にしろ、私には発音という壁によって扱いきれないものが多すぎるため何も興味がなかった。
セブルスが闇の魔術を勉強したいなら好きにしたらいいと思っていた。
しかし、リリーは気に食わないらしい。
その頃小さな口論になることがしばしばあった。
大体セブルスが言い負かされて、その場で本を閉じることになる。


リリーとセブルスの喧嘩の火種になる闇の魔術はちょっと嫌だな、そんな風にしか考えていなかった。
この頃も私の世界はリリーとセブルスが中心に回っていた。
人を殺すような呪いだろうがなんだろうが、リリーとセブルスさえ生きていてくれればどうでもよかった。




「最近、魔法生物の図鑑ばかり読んでいるな」


開いていたページに栞をはさんでセブルスは闇の魔術の本を閉じ、横に置いた。
私が地面に置いて食い入るように見ている大きな図鑑を覗き込んできた。

1,2年生までは魔法史の本を読むことが多かったが、三年で魔法生物飼育学を選択してからはもっぱら図鑑ばかりだった。



「すごく、かわいいの」



ホグワーツでの生活が3年目になってリリーやセブルスの前でなら流暢に話せるようにはなってきた。
授業中に当てられると緊張でまだカタコトになってしまうがまだマシになったほうだ。



「これワタリウサギっていうの。通称バカウサギ」
「バカ?」
「うん。熱に弱い動物で冬の地域に季節ごとに渡るからワタリウサギ。普段は隠してるんだけど、渡るときには翼を広げて飛んで行くの。けどね、このうさぎは極寒の冬の日でも晴れると春が来たって勘違いしちゃって渡っちゃうんだ。馬鹿でしょう?」



図鑑の中で渡っている様子が何度も繰り返される。
晴れた時に耳をピンと立てて急いで羽ばたく姿だ。
一匹渡ると周りも釣られて、結局群れで渡ってしまう。


ぼけてて可愛い。



図鑑の中のバカウサギの様子を見て笑みがこぼれた。



「いつ見られるんだ」
「二月か三月が一般的かなあ。けど冬の晴れた日でも渡っちゃうから正確な時期はわかんないんだ」



それにバカウサギは絶滅危惧種に認定されているからいくら寒い地域だといっても見られない可能性の方が高い。



「……そうか、もう今年は見られないのか」
「もう四月だしね」



いつか見られるといいな、とセブルスが優しく微笑んでくれた。
セブルスの笑顔に私も嬉しくなって笑顔になる。





「っ!」
「なまえ!」





開いて地面に置いていた大きな図鑑が急に私の顔にぶつかってきた。
そのまま鼻を図鑑に強打してしまい、鼻を押さえてうずくまった。
手にぬるりとした感覚が伝いみてみると、血が出ていた。
余りにもの衝撃に鼻血が出てきたんだ。



血が止まらない。
緑の芝生に鮮血が広がっていく。



「……っ、折れてるぞ」



心配したセブルスが鼻を押さえていた私の手をどけて怪我の度合いを見てくれた。
苦虫を噛んだような顔で私を見た。





「どうした? よく見せてやろうと本をわざわざ近づけてやったんだぜ?」
「近くで見れて興奮してるのかい? 鼻血が出ているよ」





茂みからポッターとブラックが出てきた。


鼻血のせいで鼻から息ができないために、口で息をしなければならないため自然と息が荒くなる。
さっさと立ち去ろうとしたが、痛みと衝撃で脳が揺れたのか、立ち上がれない。




「ステューピファイ!」
「プロテゴ!」
「エクスぺリアームズ!」



セブルスの攻撃はポッターに防がれ、ブラックの武装解除呪文が当たり、セブルスの杖が飛んだ。



「くそっ」
「させるかよ! ステューピファイ!」



セブルスが杖を取りに行こうとしたがブラックのせいでセブルスは失神してしまった。


「せ、ぶ……」

痛みと、血が口にも入ってきてうまく話せなかった。
ブラックが私の肩に足をつけ、そのまま力を入れてきた。
抵抗することもできず、私はそのまま芝生に転がった。




「きったねえなあ」
「折れてるね。まあこれで低い鼻も少しは高くなるんじゃない?」



蔑んだ目で見てくる二人。
汚いなら見なければいいじゃないか。



「いつになったら出て行くんだよ、イエローモンキー」
「闇の魔術を勉強するためにここに残ってるのかい? ダームストラングのほうがいいんじゃないかい?」




まあどこに行ってもお前みたいなイエローモンキーは受け入れてなんて貰えないだろうけどなと吐き捨てるように言われた。



いつ私が闇の魔術を勉強してるって言ったんだ。


言い返す気も起こらず、どんよりと曇った空を見上げる。
ああ、リリーがいてくれたらまだマシだったのかな。
けどポッターたちの会話によると呪文を放ったのはブラックのようだし、リリーがいても折れてたかもしれないな。



そんなとんちんかんなことを考えた。



(痛みも蔑みも怒りも与えられるものは全て受け入れた)
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