fate. | ナノ





イルが仕事終わりにやってきた。
カルト君の手紙も一緒に。




差し出された封筒を受け取る。



「ん?」



あれ、手紙二つある。
なんで?
一つはカルト君でしょ。
もう一つは……?



もしかしてカルト君のお母さん!?
やばいこれ、クレーム!?
うちのカルトちゃんに折り紙だなんて低俗な遊びを覚えさせて……! とか書かれてたらどうしよう。
別に折り紙は低俗でもなんでもなくて、立派なジャポンの文化なんだけど。


見覚えのない封筒を開けて中の手紙を開けてみる。


あれ、一枚だけだ。
もっと恨み辛みを何枚もの紙に書いてあるのかと思ったのに。



一体何が書いてあるんだろうと思って開けてみる。








―――――――――――――

なまえへ




きつねうどんが食べたい





イルミより


―――――――――――――







「口で言え!!!!」
「え」




目の前に座るイルに思わず怒鳴る。
だって、こんなことを手紙で言うなんて、資源の無駄だ!
てか、会えるのになんで手紙で伝えるんだ?





「オレそんな反応されるとは思わなかった」
「え、だって」




イルが目を見開いて驚いている。
いや、驚きたいのはこっちなんだけど。




「手紙貰ったら嬉しいんじゃないの」
「う、嬉しいけど……」
「今の顔、嬉しい顔じゃない」



少しむっとして不機嫌そうなイル。
確かにこの前手紙貰ったら嬉しいって言ったけど。




「それはなかなか会えない子に貰ったら嬉しいけど……イルとは結構な頻度で会ってるじゃん」
「キルやカルから貰った時はあんなに嬉しそうな顔してたくせに」
「だからイルとはいっぱい会ってるじゃん」
「……」




全然納得してない顔をするイル。
そんなに拗ねることないのに。
ちょっと強く言いすぎたのかな。
イルは私を喜ばせようとしてくれたんだよね。




「俺から貰った手紙は嬉しくないんだ」





そっぽを向いてしまった。




ダメだ、今のイルは大きな子供だ。



今更になってしまったと思う。
もうちょっと気を使った言葉をかけるべきだった。


多分イルは手紙なんか書いたことないんだろう。
どれだけ悩んで考えても何も書く事が思い浮かばなくて、結局今日言う言葉を書いたんだろう。
『きつねうどんが食べたい』の文字を書くのに何時間も悩んでたんだろう。
イルは普通のことを普通にこなすことは難しい。
その手紙を書くという私たちにとっては普通のことを私を喜ばせたい一心で書いてくれたんだ。




……本当に申し訳ないことをした。




ごめん、って謝ると余計に火に油を注ぎそうで何を言ったらいいかわからない。
言葉は目に見えないし、残らないけど使い方を間違えたら凶悪な武器になる。





何を言ったらいいかわからなくて、イルからの書置きのような手紙を見る。








……そうか!



戸棚から便箋を出して書く。
一回だけ折って、イルに差し出す。




「なに」



まだまだ不機嫌そうな声色で目の前の私が書いた手紙を見る。
読むように視線で促すとひとつ折りの手紙を渋々開いてくれた。




―――――――――――――


イルミへ



みたらし団子はいらないの?



なまえより

―――――――――――――




手紙に向けてた視線を私に向けてきた。
その後、私が使っていたペンと便箋を使って何か急いで書きだした。

そして、ひとつ折りにして私に差し出してきた。



開いて中を確認する





―――――――――――――


なまえへ



食べる



イルミより


―――――――――――――






「ぷっ」




これくらいだったら言ったほうが早いのに。
律儀なイルに思わず吹き出してしまう。


イルを見るとなんだか満足そうな顔だ。
とにもかくにも機嫌が治って良かった。



(少しでも多く繋がりたくて)
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