▽ <1章>

1章

「ええっまた特異点ですか?」

2016年某月。ゲーティアの残した魔神柱が作った特異点を片付け、ほんの束の間の平和を感じていたところーーダ・ヴィンチちゃんに呼び出された。隣に立つマシュも色々な資料を抱えている。顔色は悪く、徹夜続きのようだ。
さっき大声を上げてしまったのを申し訳なく思った。

「うん。数日前から観測されてね。まだ疲れが癒えてないところ申し訳ないけど、立香ちゃんよろしく頼む」
「はい、もちろんです…」

せめて暖かい場所がいい。だがダ・ヴィンチちゃんに示された観測点を見て、うわぁ…と思った。
ロシアの西側からドイツにかけて。お世辞にも暖かいとはいえない。
「1960年ぐらいかな。どうも現代は魔術の力が弱まって、測定がしにくい。一応この特異点でも第二次世界大戦は終わってるみたい。でも、冷戦中だから平和とも言えないね。
 立香ちゃん、現代史は得意?」
「いいえ」

日本史の時間に先生が『この時代をやらない学校もあるが、今の政治と直接関係がある大切な場所だぞ」と熱弁をふるっていたことを思いだす。でも覚えているのは最初だけだ。授業はぼーっと聞いていただけで、テスト前に参考書にのっていた人名と出来事を暗記して、呼び出されない程度の点数を取った。

「思想統制の強い時代はうんざりだね。ここは共産圏だから、日本人ってことは隠しておきなよ。まあ、日本人ならそこまで酷い目に合わないだろうけど…」
ダ・ヴィンチちゃんは英霊のリストを提示する。
「この圏内で多少の関係がありそうな英霊をピックアップしたから、現地で召喚を試みてね!一緒に行ってもらうサーヴァントは、もうすぐ来るよ」
そう言われた矢先に入り口が開いて、2人の英霊が歩いて来た。
どちらも見慣れた顔で、こちらに向かって微笑んでくれた。

「改めて紹介しよう。こちらはキャスターのサーヴァント、エレナ・ブラヴァツキー。19世紀に古代から近現代まで幅広い魔術を極めた女性だ。
それにアーチャーのサーヴァント、エミヤ。彼のことはよく知っているね。もっとも現代に近い英雄で、この地域にも行ったことがあるそうだからお願いした。この二人はとても面倒見がいいから、戦闘だけでなく相談役としても頼りになる存在だ」
「はい、お二人が来てくれて本当に心強いです」

よかった。エレナさんはいつも猛獣のように喧嘩している電気のおじさんたちをなだめているし、エミヤは猛烈な勢いで食堂に攻め込んでくる英霊たちをきちんと整列させる秘技を持っている。
でも2人が抜けて、カルデアは大丈夫かな…?

「大丈夫よ。結局のところ、お互い認め合ってるから殺し合いにはならないわ。それに喧嘩したら連絡してってダ・ヴィンチには言ったし」と、エレナさん。
「食堂はやや心配だが、ブーティカやキャットも『ぜひ立香のために』と勧めてくれたのでな。」とエミヤ。
二人の言葉に、頑張れる気が湧いて来た。

「先輩!」それまで口を閉じていたマシュも励ましてくれた。
「大変ですけど、困ったことがあったら全力でサポートします…!
エレナさん、エミヤさん、先輩をよろしくお願いしますっ」
「マシュのこと、頼りにしてるよ」
彼女が笑っていられるように、必ず帰ってこよう。


「じゃあ、着いたらすぐ霊脈を探して、通信システムを構築すること」
「「はい!」」
「いくよーー… オーダースタート!!」


コフィンに入ると光が溢れ、しばらく瞬いた後、急速にあたりが暗くなっていった…。





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