■ ■ ■
=13粒目 千利休=
カルデアに茶の庵(いおり)ができた。
土壁に茅葺きの屋根。四畳一間のこじんまりした建物に、「あんなせまい所でどう癒されるんだ」と西洋圏のサーヴァントたちは言うが、日本のサーヴァントたちは口を揃えて
「すばらしかった」
とほっこりした表情で言うから、リラックスには東西で大きな差があるらしい。
──でも、茶道ってなんだかハードル高そうだし。
日本出身の立香は後ろ髪をひかれながらも、何度か素通りしていた。そんな折、茶の庵の主人である千利休からお誘いがきた。達筆な手紙に竜胆(りんどう)の花を添えて。
「思ったことを述べてかまわないのですよ」
「ええと、思った以上にこじんまりというか……」
低く小さな入り口をくぐった先は畳の一間だった。釜と茶道具を置くスペースをのぞけば、千利休とは身体が当たりそうなほど近い。
「そうなのでございますよ。元々、茶の湯はひざを突き合わせて、腹のうちをエンリョなく話してもらうためのものでして」
だからこんなに狭いんだ、と立香は呟いてゆっくりと息を吐いた。土と畳の匂いに懐かしい気分になる。あたたかい湯気がたちのぼり、こぽこぽと湯の沸く音に目元がゆるむ。いつもの不安心な境界を一歩離れて、重荷を一つおろしたように感じた。
「……で、何を話せばいいの?」
と、立香が言うと
「そうですねえ。立香どのの話したいことであれば、何なりと」
「何でもいいの?」
「ええ、何でも。せっかくですし恋バナ≠ナもしましょうか? 茶の湯の主人は喜んでお相手をいたしますよ」
問いかけに対し、千利休はたおやかな手つきで、茶椀と菓子を前につき出しながら言った。
竜胆の花言葉「あなたの悲しみに寄り添う」
13粒目
ほっこりした時間に甘い菓子を添えて。