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 =14粒目 ドゥリーヨダナ=

 カルデアじゅうに甘い匂いが立ち込めはじめる2月中旬。マスターである立香の私室に、断りもなく入ってきたサーヴァントが、また一人。
「聞いたか立香! 現世にはバレンタインデーという催しがあって、恋人に贈り物をしたり、恩人に日頃の感謝を伝えたりする日があるそうだなあ!」
 立香は薄開きの眼で頷いた。昨晩もシュミレーターでの演習やレポート作成で遅かったのだ。
「もちろん! このわし様にも準備をしてあるのだろうなあ!!」
「……ハイ」
 立香は小さな声で返事して、ベッド脇に用意してあった大袋をゴソゴソとやり、小袋に入ったチョコレートを差し出した。
「ドゥリーヨダナには、これを差し上げます」
「はは、大義……ってなんだコレは!? こんなちんまいチョコが、わし様に対する気持ちのあらわれだと言うのか!?」
「………」
 だからこうなると思ってたよ、と立香の覚めた目は語っていた。そんなに騒がなくていいのに。寝起きの低いテンションの彼女をさしおきギャーギャー言う大男の手から、苛立つ気持ちでチョコの小袋を回収しようとする。
 立香が小袋をつかもうとした瞬間、ドゥリーヨダナはとつぜん真顔になった。
「何をするつもりだ?」
「え、気に入らないみたいだから……」
 立香がそう言うと、彼は大きく目を開いた。ばつが悪そうに目線を泳がせたのち、ドゥリーヨダナは大きく咳払いして、小袋をきらびやかな上着の中にしまい込む。
「いらん、とは言っておらん。そもそも、わし様に物を贈るときの最低限の心得ができておらんのだ。だが、小娘に期待しておったわし様も悪い。うん、そこからだったな!」
 自分勝手な納得付けをするドゥリーヨダナに、立香は「そこまで言わなくても」と傷ついたかのように顔を伏せる。
「おいおい……」と狼狽した声に
「でも、気に入らないんでしょ?」と返す。
「ふん!気に入らんわ!……だが手放すと言うのも癪に触るから、コレはありがたくもらっておく! よいか、もらってやるのだぞ」
 ドゥリーヨダナは背を向け、ぶつくさとまだ文句を言っていた。しかし部屋から出る寸前に、「また来るぞ」とだけ言い捨てていく。
 ドアが閉まった瞬間に、マスターである少女は、堪えきれなくなって笑い出した。
 ──なんだかんだ言って貰ってくれると思っていた。立派なお返しを手に、「こうするのだぞ」だとか言って、偉ぶりながら渡してくるのだろう。
「……素直な人だなあ」
 そこまでお見通しだったように、ふふ、と笑いながら、少女は大袋のなかで一つだけ特別な色だったあの小袋が、彼の懐中に入っている現状に満足している。


14粒目


 お返しはきっと……え? 国? 要りませんって。


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