第六話

ユメと反抗期

翌朝。定時に全員が揃ってレッスンが始まった。
昨日とは違ってガウェインとアラグウェインも大きな振りは合うようになってきた。ところが、センターが交代するところでアグラヴェインの動きが遅く、モードレッドに衝突した。
「ってぇ!」
モードレッドが弾かれる。彼より体が小さいのだから仕方がない。慌てて手を差し伸べたアグラヴェインに、モードレッドは声を荒げた。「お前、今まで何回もここ確認したよな。ド素人でももうちょっとマシだぞ。」
ごめん、とアラグウェインが申し訳なさそうに謝る。
ガレスがフォローした。
「アグラヴェインはだいぶ上手くなってるよ!初心者だったのに上出来だ。ガウェインもね。」
「そうですね。ガレスにみっちり教えてもらって、私も彼もだいぶ良くなったと思います」
とガウェイン。
さあもう一度、と音楽が再開する。そして完成度は低いが、先ほどのところも無事に通過し最後まで踊り切った。踊り切った彼らは、イェーイと、ハイタッチでたたえ合った。テレビのカメラがすかさずシーンをおさめる。

(…このシーンだけ見たら、全員が団結しているように見えるけど…)

モードレッドがカメラに表情が映りにくい位置へ立っていることに名前は気づいた。そのあとのレッスンも、こっそり彼を目で追った。




「なあ、話があるんだ。ちょっといいか。」
昼休み。テレビの制作スタッフも席をはずしたところで、モードレッドはガレスを個人的に誘い出した。
人が周りにいないことを確認し、並んでベンチに座る。
話って何?とガレスは聞く。モードレッドはいつになく真剣な表情で言った。
「…正直に話してほしい。お前はこのアヴァロン・ノヴァの企画をどう思ってる?」
「どうって……」
突然の質問に、ガレスは戸惑いながらも答える。
「それは気が重いよ。アヴァロンは憧れの存在だ。きみと同じぐらいね。でも、それ以上に嬉しい気持ちがある。あの人たちの名前を背負ってデビューできるんだから。」
 そうか、お前は嬉しいのか…とモードレッドは視線を地面に落とした。
「オレだってそうだ。でも、だからこそこんな風にやるのは嫌なんだ。再結成だとか騒いで、テレビまで呼んで売りこもうとしてるのが。
 オレはこんな形でデビューしたくない。」

はっきりと彼は言った。ガレスは少し動揺した。
二人は幼い頃からレッスンやイベントで顔なじみであり、グループを作ると聞いた時も一緒に喜んだ。だから、モードレッドのイライラにもずっと気づいていた。
その一方でガレスも彼に言いたいことがあった。

「じゃあ、モードレッドがあの二人に冷たいのはどうしてなの?」
「いいや、あいつらは単純にムカつくだけだよ。アヴァロンの名前を負うっていうのに、全然できねえし…」

その言葉を聞いて、さっきまで動揺していたガレスの表情が変わる。
「モードレッド…」
 ガレスは静かに言う。「そんなにしんどいなら、辞めればいいよ。」
「ああ、でも…」
「きみだけね。僕は続ける。」
驚いたモードレッドを突き放すようにガレスは言った。
「きみは『こんな風にやるのが嫌だ』と言った。アヴァロンが憧れの存在だから、ってね。それなら理解できる。
 でも、きみの今の行動は自分のイライラを二人にぶつけてるだけじゃないか。」
ベンチからも立ち上がる。
「はっきり言って、アヴァロン・ノヴァの結成に一番ジャマなのはきみだよ。あんな態度だったら、もし結成してもうまく行かなくなる。しんどいと思ってるんだったら、辞めればいい。」
茫然と自分をみつめるモードレッドに背を向けて、言い放った。
「お昼食べ損ねちゃうから行くね。」

…彼は歩いていく。
その背中を見送りながら、モードレッドはぎゅっと拳を握った。



ビー、ビー、ビー。携帯の呼び出し音が鳴っている。相手は反応しない。
午後のレッスンがはじまってもモードレッドは現れなかった。
「あーあ、また反抗期か。」獅子劫は愚痴った。
一時間遅れて、モードレッドがやって来た。心配して声をかけようとしたメンバーを無視し、彼は入ってくるなり大きな声で宣言した。

「オレはグループから抜けさせてもらう。」

部屋中がざわつき撮影中のカメラが止まる。誰もが顔を見合わせ、突然の事態にディレクターがマーリンへ電話した。ガレスだけは静かな表情だった。

数分後、マーリンが慌ててやってきた。
「モードレッド…!状況は聞いたが、君とは直接話をしたい。ここか控え室で待っていてくれ。
 桜テレビのスタッフは機材室に集まるように。今日の撮影はいったん中止だ。」



機材室に集まった桜テレビのスタッフはため息をついた。
「状況を詳しく説明してほしい。」とマーリン。
「昼までは何もなく全員で練習をしていました。食事のあと、モードレッドさんだけ1時間ほど遅れてきて。」とディレクター。
「何か、雰囲気が悪くなるようなことは?」
「ダンスのとき、アグラヴェインさんとぶつかって怒っていました。でも、そのあと通しが成功してハイタッチしてましたけど…。」
ミス帝京が口を挟んだ。ふうむ、とマーリンは考え込む。

(…このままではよく分からないまま彼が辞めてしまう……)

名前は昨日のことを言うべきか迷っていた。ムニエルと目が合う。彼は意を決して話しだした。
「あの…実は、昨日休憩中の彼とマネージャーが話しているのを聞いてしまって。モードレッドはアヴァロン・ノヴァの企画に反対だったみたいなんです。」
 もう少し詳しく、とマーリンは促した。
「そのあと、マネージャーの獅子劫さんが僕と名前を呼んで…彼女も一緒に聞いていたので……彼は『モードレッドはアヴァロンのファンだから反対なんだ』と言っていました。」
名前も話した。
「『真剣だから周りを許せない』と言っていました。」

それを聞いて、マーリンはため息をついた。
名前は心配になった。我が儘だ、と言って切り捨ててしまうのだろうか。

「じゃあ、彼のマネージャーも含めて話したほうがいいな。
 ムニエル、名前ちゃん。マネージャーのところに行くから一緒に来てくれ。」




「おっと、話しちまったか。まあ仕方ないよな。」
獅子劫はマーリンが現れたので、くわえていた煙草を急いで消した。
「ミスター獅子劫。申し訳ない、こんな状態だから2人もしかたなくね。」
「いや、構わない。ヤツのせいで色々な所に迷惑がかかるのは覚悟してるさ。謝るのも慣れたもんだ。」
「モードレッドは?」とマーリン。そこにいる、と獅子劫は控え室の扉をさした。彼らと一緒にそのまま名前達も部屋に入った。


 モードレッドはすっかり力が抜けたのか、ソファーに寝転がっていた。それでもマーリンを見て慌てて起き上がる。しかし獅子劫や名前達までいるので、ため息をつきソファに座って足を開いた。

「…なんだ。4対1でお説教とは、上等だな。」
「お説教に来たんじゃないさ。」
とマーリン。「モードレッド。どうしてアヴァロン・ノヴァに反対なんだ。キミの口から聞きたい。」

マーリンに言われ、渋々とモードレッドは理由を並べた。
アヴァロンを商売利用するようで嫌なこと。自分たちの実力不足でアヴァロンの名前を汚すのが嫌なこと。
それらを言い終わって、逆に尋ねた。
「……なあ、マーリンさん教えてくれよ。アンタはこの企画に賛成なのか?」

マーリンは少しだけ遠くを見た。ゆっくりと言う。
「正直に言えば、あまり賛成していない。」
モードレッドは「やっぱり」と言いながらぎゅっと手を握り締めた。
でも、とマーリンは言葉を続けた。
「…それはきみたちのせいじゃない。私たちアヴァロンはあることをきっかけに解散したんだ。きみたちが結成されれば、その件を思い出して再び胸を痛めるメンバーがいる。それが嫌だった。」
 この場にいる全員が初めて聞く話だった。
「何があったかはまだ話せないよ。
 でも、そのときまでアヴァロンは本当に楽しかった。最高の仲間だった。」

そして、彼はモードレッドをじっと見た。
「きみの言葉を聞いて思ったのは、きみはメンバーにふさわしくないということだ。」


ゆっくりと、モードレッドは顔を下に向けた。目はぎゅっと閉じていた。
彼は自分の殻に閉じこもろうとしている。名前はそこまで追い詰めるマーリンの真意を知りたくて彼を見つめた。
「なあ、ちょっといいか。こんな我が儘なヤツだけど、お前さんたちアヴァロンに憧れて必死に努力してきたんだ」
獅子劫が言う。「今の言葉は少し酷いんじゃないか。」
名前も後ろでこっそり頷いた。するとマーリンは、
「モードレッド、君はどうしてグループに選ばれたのか考えたことがないのかい?」
と言った。
「アヴァロンは私がアーサーを誘って作ったグループなんだ。メンバーはだんだん増えたけど、みんなで地道に努力して人気が出た。
ちなみにアーサーは才能はあったけどダンスは初心者でね。僕が教えたんだ。ランスロットはダンスは上手いけど歌は全然ダメ。トリスタンも、べティヴィエールも最初は上手くなかった。
正直言うとモードレッド、君はアーサーの初めの頃より遥かにダンスも歌も上手い。」

あんまり言うと怒られるけどね。マーリンは微笑んだ。
そしてモードレッドの手を取ると、強く握り締めていた手を開かせた。

「…きみはせっかく上手いのに、自分のことばかりだ。むしろ自分のできないところをアラグウェイン達の出来なさに重ねてイライラしている。アヴァロンの名前を利用して売れるのが嫌だ?それが無いと売れる自信がないのかい?
 怖いなら、ガレスたちにアヴァロン・ノヴァを任せろ。きみがいなくても良いと思うなら。
でも、きみは誰よりもアヴァロンを好きなんだろう。このチャンスを利用して自分のやりたいことをやるぐらいの気持ちでやるんだ。」

一息に彼は言った。そして、真剣に目を見て問いかける。「モードレッド、本当に辞めたいのかい?」

「うるせーよ…」
モードレッドはそう言っただけだった。マーリンがずっと自分の手を握っているのに気づいて、赤くなって手を離す。
そのまま部屋を出て行こうとするので、獅子劫が「どこに行くんだ」と聞くと、
「あいつらのところだよ。」と彼は言った。



モードレッドはレッスン室に入ってくると、何もなかったような表情をよそって言った。
「――さっきのは撤回だ。練習、再開しようぜ。」

この宣言を3人はぽかんとした表情で聞いた。モードレッドは不満そうに3人を見る。
「…なんだよ。ごめんなさい、とか一緒にやらせてください、とか言うと思ってんのかよ」
「いいや、まさか」
ガレスは堪えきれずに笑い出した。「実は、今!モードレッドがどれぐらいで戻ってくるか賭けてたんだ!」
「はあっ?」とモードレッドは叫ぶ。
「私は1週間」とガウェインはすかさず言った。
「3日はかかると思ってた」とガレス。
「ええと…私は」アグラヴェインが言った。「今日中に戻ってくると、思いました」
お前、とモードレッドはキレた。「覚悟しとけ!」

ガレスは笑いながらモードレッドに近寄り、彼の頭に手をかざす。
「だいたいモードレッドは僕らみたいなチビでアヴァロンに対抗できると思ってるの?ガウェインとアグラヴェインのルックスがないと『可愛い』止まりじゃないか。」
ずけずけと言う。
モードレッドは目を見開いて怒りをあらわにした。ガウェインとアグラヴェインはちゃっかりしているガレスにちょっと複雑な顔をしている。

「なんだよ!調子に乗りやがって。言っておくけど、オレはアヴァロンを超えるからな!
 そのためにせいぜいお前らを利用してやる。オレが直々に教えてやるんだ。ガレスみたいに生っちょろくないからな。覚悟しとけよ!!」


ジー…と名前の耳元で音がしていた。
振り返ると、ムニエルが一部始終をカメラでおさめていた。ムニエルは「いい画がとれた」という表情をしている。
名前は「こんなときまで…」とムニエルの行動にあきれたが、4人を見ながら静かに微笑んだ。




『オレはアヴァロンを超えるからな!』

編集室で映像が流される。ムニエルの録画が最後のシーンに抜擢された。彼はディレクターたちから褒められてご満悦である。
そのあと名前はミス帝京とすれ違ったが、目があっても彼女は何も言わなかった。




――アヴァロン・ノヴァ。
彼らはめでたくデビュー曲をオリコンランキングに飾った。


その後、トーク番組に呼ばれたモードレッドは収録後にマーリンを見つけて話しかけた。

「あのう…この前は言えなかったから」
珍しく声が小さかった。
「オレは……アヴァロンを、アーサーさんを、すごく尊敬している。でも、尊敬している以上に今は超えたい気持ちが強いんだ。だから、アーサーさんの話をもっと聞かせてく…くれませんか。」
最後はしどろもどろだった。
「いいよ」マーリンは微笑んだ。「実は、アーサーはね…」


モードレッドが叫んだのは、数秒後である。




<次話『こんなところに……!』>


モードレッドは身長がアルトリアと同じ154cm42kgなのだ(公式)。憧れのアーサーに近づくため、身長が伸びるように毎日牛乳を欠かさないぞ!
自分と青王が身長とかそっくりなのを知って、(目標を失った)喪失感や嬉しいやら複雑なモーさんが見たい。



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