第五話

※アイドルの仕組みに全然詳しくないので優しい気持ちで読んでください。

プロジェクト、始動!


ある日の正午。
社内の密室に20名程が集まっていた。話している人もいるが、ほとんどは何を話し合うために集められたのか分からず口数が少ない。
その一人、名前はごくりと唾を飲み込んだ。新人研修のときに色々な部署を見回っていたので、あの人は編集所にいたなとかカメラの人だとか観察しながら主催者の登場を待った。
 定時ぴったりにチーフプロデューサーのダ・ヴィンチとマーリンが入ってくる。資料が配られ、その内容に名前は目を大きく開いた。

「きみたちに集まってもらったのは、あるアイドルグループの密着番組を作るためだ。まだ世の中に出ていないグループだけどね。
 アヴァロンという名前を聞いたことがあるだろう。大人気だったのに突然解散した伝説のグループだ。その意思を受け継ぐという形で、新たなアイドルグループが結成されることになった。その名は、アヴァロン・ノヴァ!」
 ダ・ヴィンチは高らかに宣言した。
「事務所から結成に密着した番組を作って欲しいと依頼があり、アヴァロンの一員だったマーリンに声がかかったんだ。
 このグループは若いファン層だけでなくアヴァロンが好きだった層も取り込んで大ブレイクするだろう。高視聴率は間違い無しだ!」
 彼女の言葉に参加者はどよめいた。でも名前はマーリンが黙ったまま立っているのが気になっていた。

 その後会議は熱を帯びたものになった。放送作家が書いた番組の筋書きを聞き、担当、スケジュールを決めたりして、参加者の頭の中にすっかり完成した番組が出来上がっていた。誰もが「面白そうだ」と胸を膨らませている。もちろん名前もアヴァロンの大ファンとして天に昇りそうな気持ちだった。
 しかし、まだ発表を公にしてはいけないという。事務所が結成を大々的に宣伝したいらしい。何度も口止めされて会議が終わり、さっそく名前は番組で使う資材の確認に行く。

すると待ち構えていたようにミス帝京の子が話しかけてきた。

「ねえ…さっきの集まり、何だったの?」
「ええっと…」名前は口ごもる。言うわけにはいかない。
「ごめんね、制作スタッフ以外に口外しちゃいけないことになってるから。」
「……あっそ…。」
それ以上何も言うことなく彼女は去っていった。胸が少し痛んだ。



次の日。制作スタッフが集まったとき、当然のようにミス帝京がいた。
名前が少し驚いていると、あるディレクターが丁寧に彼女に資料の説明をしている。ああ、と納得した。
チーフADに(本当に)昇進したムニエルが話しかけてくる。
「なあ、あの子、昨日いなかったよな?」
「…はい」
「すごいよなあ。あんなに分かりやすく先輩にねだる新人って。
 名前、ちょっとあの子に目つけられてるんじゃないか?」
うーん、どうなんでしょう。と曖昧な返事をする。
……あれだけ能力のある子だ。自分が呼ばれず、何の変哲もない名前が呼ばれていたら納得いかないだろう。
「まあ、もし困ったことがあれば言えよ。俺はお前の味方だから。」
「ありがとうございます。」
杞憂だと思いながらも、名前は感謝を述べた。



収録場所のレッスン室に新アヴァロン――アヴァロン・ノヴァのメンバーが入ってくる。
先頭からモードレッド、ガウェイン、ガレス、アグラヴェイン。すでにそれぞれ個性が立っており、明らかに一般人ではないオーラを放っている。
簡単に名前と経歴を名乗った。


モードレッド
…アイドル養成所に幼い頃から通い、歌唱力とダンスがずば抜けている。
ガウェイン
…帰国子女で街を歩いている所をスカウトされた。歌唱力が高い。
ガレス
…子役からの転身。アイドルグループのバックダンサー経験もある。
アグラヴェイン
… メンズアイドルのオーディションで目をつけた事務所がスカウト。


資料にはこんなふうに書かれていた。テレビ番組のスタッフを前に、新人らしく緊張感しているガウェインとアグラヴェイン、そうでないモードレッドとガレスで対照的な雰囲気だった。

「それでは、さっそくレッスンの様子を撮らせていただきます。カメラは気にせず自然体でお願いします。」

名前たちはイケメンに見惚れる暇もなく、ディレクターや先輩ADの指示に従って忙しく動いた。
ダンスのレッスンは振付師の動きをまね、鏡で確認しながら練習していくが、やはり慣れていない2人の動きが遅い。何度もやり直しになる。
それでも粘り強く4人で練習していたが、とうとうモードレットが手を挙げた。
「…そろそろ限界!なあ、オレとガレスは抜けていいか?」
「私は続けていいですよ!さっきの振り、もう少しで出来そうですから」と、ガレス。
じゃあオレは休憩、と、モードレッドはタオルを取って一人でレッスン室の外へ出ていく。彼のマネージャーも外に出た。
すると、「インタビューいくか!」と空気の読めないムニエルが張り切って(昇進したばかりだから)カメラを背負い、助手の名前も連れて行かれる。
彼らを探していると、とつじょ怒鳴り声が聞こえてきた。

「…ったく、何がアヴァロン・ノヴァだよ。アヴァロンはアヴァロンだろうが!」

先ほど出ていったモードレッドの声だった。
「そこらへんにしとけ。あとでたっぷり聞いてやるから。でも、お前さんにしちゃよく頑張ったほうだぞ。いつ爆発するか分からんくてヒヤヒヤしてたからな。」
「そりゃ、テレビの前だからな。優等生ヅラはまじでだりー。」

とてもテレビに流せたもんじゃない。ムニエルと名前は顔を見合わせて退散しようとしたが、直感の鋭いモードレッドと目があってしまう。
「…お。」
「おっと、だな。こりゃ」
彼のマネージャーが続きを言った。モードレッドは一瞬真面目な顔を作ろうとしたが、ため息をついて足を前に投げ出した。
「見られちまったもんは仕方ないよな。今日はもう疲れた。
 なんだよ、期待通りの中身じゃなくて残念だったな。でも、録音はしてないから大丈夫だろ?テレビなんだから、編集、よろしく頼むな。」
 固まっている名前たちを馬鹿にしたように笑う。
「いい機会だから言っておいてやるよ。オレは、アヴァロン・ノヴァなんて反対だ。何十年前のアイドルグループだよ。そんな奴らの二番煎じさせられるオレらの気持ちになってみろ。
 こんな企画、ぶち壊してやる!」




ムニエルとカラサは肩を落としてレッスン室に戻った。中ではまだレッスンが続いていて、他の3人は四苦八苦しながらも笑顔を絶やさず頑張っている。まさにアイドルらしい光景だ。
残りは各自練習となり、3人も休憩に入った。順番にインタビューされていく。

「モードレッドさんは…もう一度、インタビューしにいく気にならないですね。」
「ああ。ちょっと俺らにはパンチが強すぎるな。」

ムニエルは他のメンバーを撮ろうとした。ところがすでに他のスタッフが撮っていて手持ち無沙汰になる。
ミス帝京はディレクターにくっついてきびきび動いていた。間に入れない名前をちらっと見て、上機嫌で仕事が捗っているようだった。
そのときレッスン室のドアが開いて、モードレッドのマネージャーだけ顔をのぞかせた。彼はムニエルとカラサを手招きした。



「…さっきは済まなかったな。俺はマネージャーの獅子劫という。
 俺がいうのも何だが、アイツはちと厄介なヤツでな。」
自販機の前に行き、お詫び、というように缶コーヒーを奢ってくれた。
改めて対峙すると、顔に傷跡があり筋骨隆々でかなりの強面である。ヘビースモーカーなのか強い煙の匂いがした。
「大丈夫です。録音はしてないですから」とムニエル。
「有難い。まあ、あんまり気にしないでやってくれ。今度インタビューしたときには、優等生みたいに礼儀正しく答えられるだろうから。その辺は、わきまえて行動できるヤツだ。」
やれやれ、と言いながらも、彼らの信頼関係がきちんとできているのが分かった。名前はどうしても気になって口を挟んだ。
「あの…なんで彼はあんなに企画を嫌がっているんでしょうか?」
「そりゃあ、」
獅子劫は笑い、強面な雰囲気がくずれた。
「あいつはアヴァロンの大ファンなんだ。誰かの手で汚されたくないし、自分の手で汚したくない。だから周りが中途半端だったり、利用したりしてくるのが我慢ならないのさ。」

予想外の言葉だった。レッスンのときとは全く違った先ほどの彼が思い出された。
獅子劫は続けた。

「つまり、反抗期ってことだな。…でも大人でもそういうヤツが嬢ちゃんの周りにもいるだろう。真剣だからこそ、周りに噛み付いてくる奴が。」


ふう、と彼は煙草に火をつけて、煙をたなびかせる。
獅子劫の言葉はまるで煙のように、名前の心の中をただよった。



<次話に続く>


アグラヴェインの笑顔。すごく見たい笑。
年齢的にはガウェイン、アグラヴェイン、モードレッド、ガレスの順です。
アグラヴェインはたぶん友達が勝手に送ったオーディションがきっかけで、堅実に大学生もやっています。安いアパートで下の人に迷惑か心配しながらダンスの自主練をしています。


2020.10.11 アグラヴェインをアラグウェインと書いていたので修正しました。直し残しがあればぜひ教えてください。



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