偽りのカレンデュラ 



 葬列の少女。

 悪夢の少女。

 確信は蠢動しゅんどうしたまま、だけど、あたしには打つ手がなかった。

 悪夢、いまだに見てる。

 どうしろって言うんだ。





来 瞳
Section 3
生 理セイリ









月乃さん、こんばんは。

おひさしぶりです。雨音シトトです。

お家のほうで色々あったとのこと。

お忙しいでしょうに、そんな中、わざわざメールをありがとうございました。とても嬉しかったです。



月乃さんの小説、ずっと拝読しています。

Baby Snap!

息子の写真でもって自分の道を振り返る母親の回顧録、台詞を一切排除した手法を取られていますが、ちゃんとしたドラマになっていて驚いてます。うるうるです。

やっぱり月乃さんの描かれる女性像、また母親像には、強く憧れてしまいます。



さて、月乃さんからのご質問ですが、

正直に言って「Yes」です。

ご指摘のように、ここ1週間、奇妙な夢を見ております。いえ、その夢が月乃さんの言われる夢なのかはわかりません。ただ、奇妙と言えば奇妙、悪夢と言えば悪夢……もちろん、人によってはタカが知れているものなのかも知れませんし、だとしたら、答えは「No」なのかも知れません。

なんとも言えないんです。ごめんなさい。

もしよろしければ、なぜ、あたしが悪夢を見ているとお思いになったのか、それだけでも教えていただけますと嬉しいです。



それでは、このへんで。

次は掲示板のほうにしたためます。

お休みなさい。








14 如璃

ばんこん

トトっち新作ゎ?
トトっちの書き方、如璃ゎ好きさ
天の邪鬼な感じがとっても好きさ

おいらも、もうじき完尻

牛歩の苦行でござったよ
おかげでテスト泣いたよ
あんな点数、マンガだよ
よもやの5度見

トトっちゎ無事?



🕛 2010/05/2820:39 [Edit]

14 如璃

ばこばん

興味ないし
おいらに組織力ないし

おいらとゆぅ細胞組織力

トトっちゎ有力そうね
細胞組織力

やっぱし組織ってのゎ
頭よろしき人々で形成されてたほうが
社会のためなのさ

如璃、頭、ぱースから

おいらゎ孤独にがむばるす

がむばるす



🕛 2010/05/3119:48 [Edit]

14 如璃

おひさしちょうちんパンツ

テストーテストーまたテストー
絶賛失禁中
じょびじょば

トトっちのことゎ忘れとらんぞぇ

泣かないぞぇ
らんらん



あそーだトトっち

『死線館』って知っとる?

都市伝説なのだけれども



🕛 2010/06/0620:03 [Edit]





 気になることは山ほどあるが、いちいち考えていても埒が明かないので、考えないように努めている。

 月乃つきのさんからのメールのこと。

 葬式にあらわれた少女のこと。

 工藤尚輝くどうなおきという遺体の老人のこと。

 もちろん、努めようが努めまいがあたしにはとうてい理解できない。結局、なにもわからないままさらに1週間がだらだらとすぎた。まるで、永遠のようにループする瓜ふたつの1日たち。

 月乃さんからの返事はいまだにない。

 少女についてはうまく思い出せない。

 老人の正体は明かされない。

 変わらずに悪夢は見ているし、変わらずに慣れない。少女の登場シーンも、病室での2人の男のトークも、シナリオはまったく同じなのに。新しい発見があると言えば、あの少女にしかエレベーターがコントロールできないということ。階数ボタンを押して少女の進入を妨害しようと試みたものの、乳白色の蛍光が灯ることはなかった。ウンともスンとも言わず、焦ったあたしは尋常ではない鼻水を垂らすこととなった。

 毎晩、強姦されているような気になる。

 いっそのこと医者に診てもらったほうが賢明なのかも知れない。

 でも、心の中は覗かれたくない。

 裸になんてなれない。

「つまんないねぇ、このマンガ」


2010/06/07[Mon]18:12
東京都品川区西五反田 - 大城舞彩の部屋


 かれこれ1時間もあたしのベッドを占拠したまま、来瞳くるめはぶつぶつと漫画を罵っている。あたしの漫画を、あたしの大好きな漫画を、あたしに聞こえるように。

「構ってほしいの?」

「黙ってて舞彩まいさん」

 こんな感じなので、已むなくあたしは来瞳に背を向け、勉強机のパソコンと向きあっている。

 来瞳がいるのでホームページなどとても開かれない。悟られてはならない。だから普段は絶対に行かないようなB級サイトにわざわざ赴いている。

『都市伝説ジャンクション』

 この、いかにもな名前を冠するサイトで、あたしは精一杯の抵抗を試みている。考えないようにする宣誓をあっさりと破って。

 調べているのは、如璃じょりによって伝え聞いた都市伝説『死線館しせんかん』について。

 さっそく彼女からURLを入手すると、このいかがわしいサイトへとジャンプ。

 トップページにはこんな記述がある。

『禍々しき都市伝説の数々。様々な逸話や体験談を網羅して居ります』

 3つもの「々」に出迎えられ、即座にモチベーションが萎えそうになった。でも、そこは如璃の面目をおもんぱかって我慢。閲覧者の数は400万人を超過しているわけだし、一般投稿サイトという側面もある以上は、まったく期待外れのサイトというわけでもないだろう。ちなみに、このサイトの昨日の閲覧者は2万2千人……集客のカラクリがさっぱりわからない。

 ちらと来瞳をうかがう。

「くっだらね」

 いつの間にか仰向けに、天井に背表紙を見せつけながらまだ人の趣味嗜好を罵っている。捲れあがったブレザースカートから完全に黒い下着インナーがこぼれ落ちていたが、注意したほうがバカを見るので噤んだ。

 どうやら彼女、夕飯を召しあがっていくおつもりらしい。

 視線をパソコンへと戻す。いちおう念のために規約をクリック、ひととおりを読みこんでおく。

『呪いのマークが付いて居る話は呪われる可能性が有るので閲覧を推奨しません』

 苦笑が漏れる。じゃあどうすんだよ。

 胸裏に爽やかなツッコミを入れ、トップページへと戻る。そしてメインメニューのある場所にまでスクロールダウン。怪談や心霊体験などが混在しあうお品書きの中、迷わずに『都市伝説』をクリック。





都市伝説


01/02/03/04/05
06/07/08/09/10
11/12/13/14/15
16/17/18/19/20
21/22/23/24/25
26/27

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フォビアどっとこむ
細川数子の生命占術




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「嘘でしょ……?」

 吐息の声が漏れた。

 全部で27項目。イヤな予感がする。

 まさかまさかと思いながら、逸る指先で『01』をクリック。





都市伝説 01


サッちゃん
花一匁
くっつきじいさん
線路の遮断機
続・浦島太郎
月の先輩
こっくりさん
残念ながら娘さんは
長いエレベーター
魔女の○急便
足モギババア
ジャンピングおばあちゃん
仔犬工場
小さいおっさん
見ないで
昔のダム工事
耳につまったパチンコ玉
赤いちゃんちゃんこ

足はいらんか?
531M列車
お金かえして
車のオークション
消えたファミコンソフト
髪食趣味



都市伝説RANK100

空き巣110
livedoor
ハリガネムシ
だるまさんがころんだ

軋む音
おはようおじさん
訳あり物件
黒死様
きさらぎ駅
黒枠の封筒
しょうけらさん
冷蔵庫女
ドラ○もん
トンネルのカップル
友達の友達
象の墓場
ゲシュタルト崩壊
下男
キ○ガイ村
火葬場の依頼
1000人目の住民
くねくね
浅草の幽霊
井の頭公園デート
赤い烏



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 マサカが的中。試しに題名を数えてみたところ『01』だけで50話もあった。ということは……単純計算で全1350話。

 モチベーションがまたも萎える。如璃に詳細を聞いたほうがずっと早いかも。

「言わないよフツーこんな台詞」

 愚痴が聞こえたので、再び、ちら。

「リアルじゃないんだよねぇ」

 すでにうつぶせの姿勢を取って、両足を交互にばたばたと暴れさせている。色気を哲学にするほど下着がこぼれている。

 構われたがってる。

 無視してパソコンに見入る。お目当ての題名がないのでブラウザバック。それからすぐに『02』をクリック。





都市伝説 02


コインロッカー
真っ赤な監視カメラ
松尾芭蕉
ヤマノケ
表札に謎の文字
ケータイ番号
個室の老婆
1分30秒
翻訳機
ピースサイン
彼岸花
鎌子(かまこ)
おっおさん
瞳孔のない女
携帯の誤作動
転んだら死ぬ村
写ってはいけない者
支笏湖
変態する奇病
布団から足を出すな

ピノキオ
小さな大きい世界
流行
首なしライダー
危険なゲームソフト



管理人のお薦めサイト集

アンパ○マン
外道さん
カッパ捕獲許可証
食人カップル
海老の尻尾の食感
七つの家
一時停止
きれいなきん○ま
黒いハンカチ
ベンチに座る女
盗まれたのは
妊娠熊
赤い紙と青い紙
てるてる坊主
不合格通知
ホテルのノート
3階のボタン
桜の木の下で
ハーメルンの笛吹き男
理想の異性
こいつがママを
ループ婆ぁ
人は人を殺せない
ミン○ーモモと地震
極道と胡蝶蘭



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 ここにもない。水晶体がしょぼしょぼとしてきた。もしかして、先、長い?

 続いて『03』……ない。

 続いて『04』……ない。

『05』に『06』に『07』……ない。

 まだない。

「あぁもう」

 背もたれに深く寄りかかって挫けた。

 気分転換に、ちら。

 溜め息が出た。うつぶせのまま、来瞳は寝ていた。漫画本を両手に万歳の上半身、両足の一直線な下半身、そしてスカートは完全にはだけている。

 羨ましくなる。

 椅子から立ちあがる。まずはカーテンを静かに閉め、そして藍色に染まった室内に純白の明かりを灯す。病室を再現するかのような痛烈なまぶしさに、右手をひさしにして網膜をかばうと、お尻に触れないように来瞳のスカートを摘まんで下着を隠してあげた。それから、彼女の寝姿を向いたまま、ベッド脇のフローリングへと座る。

 おもむろに右手を伸ばし、来瞳のか細い太ももに触れてみた。



ご ぢ ょ 



 背筋の内側を虫が這った。発作的に腕を引っこめる。

 なんか、生きてる。

 触れなければよかったと後悔しながら、そのまま床に、ぱたん、横になる。

 ……ナオ。

 彼の子供が欲しい。

 だけど、体外受精は選択肢にない。

 それではいけないような気がする。

 ナオを抱きたい。

 ちゃんと触れながら受精を目指したい。

 過程プロセスも欲しい。

 ナオとセックスしたい。

 触れられたいとは思わない。

 ただ、触れたい。

 触れられる自分が欲しい。

 触れられることと触れられる自分、このふたつが結実を見て、初めてあたしのは完成するはずだ。触れられる自分となって触れられるのならば、きっと、そこに壊れるものなんてなにもない。

 なんの疑いもなく触れる。

 触れる喜びを噛みしめる。

 噛みしめた喜びを届ける。

 条件もなく、規則もなく、哲学もなく、期待もしないでいられるのならば、触れて、噛みしめて、届けるパッセージを必ずや繰り返していけるはず。

 普通の儀式でいい。わざわざ特別であることを強いては「生きている」などと感慨深くならなくていい。そんな愛じゃなくていい。ごくごく普通のリンクでいい。

 普通のこと・・・・・として、手軽に、身軽に、気軽にナオとひとつになりたい。条件も、規則も、哲学も、期待もしない、至って普通のセックスがしたい。

 普通にナオの精子を招き入れたい。

 普通に繰り返していたい。

 もう、偽りたくない。

 つうと、涙が目の前を横断していく。

 なぜ、こんなあたしになったんだろう。

 いつ、こんなあたしになったんだろう。

 ルーツが思い出せない。

 悔しい。

 悔しい。

 悔しい。

 涙が目の前を

「やっぱり生理だ」

 いつの間にか、半分だけ体位を転がして、来瞳があたしと向かいあってた。

 円らな瞳が涙を射貫く。

 でも、優しい。

「ちがうもん」

 拭わず、見つめたまま答える。

「生理じゃないもん」

「違わないよ」

 優しく、ハンドベルが囁く。

「それが生理というものだよ」

 情緒不安定な女だね──微笑みながら。

「読書を邪魔してたと思ったら無我夢中で検索しだして」

 邪魔してたのは来瞳のほうなのに。

 あたしまで笑みがこぼれた。

「かと思ったら泣いてる」

 変な子──そしてまた仰向けに。

 あたしもならって天を向く。

 もう、まぶしくはなかった。

 情緒不安定──それは今にはじまったことではない。物心がついた頃にはもう不安定だった。もちろん日によって強弱はあるけど、少なくとも安定したことなんて1度たりとてない。特に、おばあちゃんを殺した日・・・・からは、なおさらに。

 この不安定は、記憶にない幼少期にまで遡る。なにが原因で、なにが起源なのか、思い出そうと試みた日は山ほどもあって、だけど、そもそも記憶にないわけだから叶うはずもなかった。藻掻もがき続けるしか術がなかった。

 でも、でも、続くのはやっぱり嫌だ。さっさと止めてしまいたい、このループ、このコンボを。きっと、あたしは焦ってる。悪夢を見はじめてからは、なおさら不安定に不安定の輪がかかっている。そして、うずたかくなった輪につまずいて定まりをなくし、今や、ただの不安になってる。

 だって──よくある夢だと思ってみる、だから気怠さを演出してみる、でも原因が気になる、だから調査してみる、抵抗してみる、でも立ち尽くしてしまう、絶望感が押し寄せる──という繰り返し。悪夢を見はじめてからのあたしはひたすらに、この繰り返しの渦中に溺れてる。

 不安だ。不安に潰されそう。

 なんで、なんであの老人は、工藤尚輝という名の老人は、なんで、なんで天涯孤独・・・・だったの?

 身寄りは?

 友達は?

 家族は?

 奥さんは?

『生涯独身のようです』

 生涯独身?

 恋人は?

 結婚は?

 子供は?



 あたし・・・は?



 ただの夢だし、夢は夢だ。そんなことは知ってる。だけどあたしは、この夢の持つ特異性に、まだ見ぬ未来を疑っている。

 本当に起こることなのではないか?

 そしてあたしは、悪夢の持つ特異性に、あの老人の正体を疑っている。

 彼は、ナオなのではないか?

 悪夢におびやかされて1週間。ただの夢だ、夢は夢だというこの言葉を最後の切り札にしながら、しかし考えないようにする努めから逃げ続けている。

 考えない、なんて、できない。

 真っ白な天井。

 真っ白な電灯。

 真っ黒なあたし。

 どれもが永遠とはいかない。いつか必ず壊れる。朽ちる。廃れる。滅する。たとえそれが、白だろうが、黒だろうが。

 寿命のもたらしたものならばまだ救われるけど、このままでは、肝心要のあたしが寿命を前にして壊れてしまいそう。

『舞彩さんもすぐいくわ』

 すぐ?

 すぐってそういうこと?

 そういうことを暗示してんの?

『生涯独身のようです』

 独身?

 独身ってそういうこと?

 そういうことを暗示してんの?



 あたし……長生きできないの?



 ただの夢だし、夢は夢だ。そんなことは知ってる。でもあたしは、未来をそっくりそのまま疑っている。考えないようにする努めからむざむざと逃げ続けている。

 不安。

 不安だ。

 壊れてしまいそう。

 だって、ナオにまだ、あたし、ちゃんと触れたことない。触れたことないんだよ。触れよう触れようと決心しながらも、いざ本人を目の前にすればとたんに気後れして、結局はほぞんでしまうんだよ。そんな繰り返しの毎日なんだよ。こんなにも、こんなにもあたしはナオの子供が欲しくてたまらないのに。

 思うほどにまた、涙が伝う。来瞳はもうなんにも言わない。同じほうを見てる。きっと、情緒不安定と困りながら、でも、あたしに近い心を模索してくれている。

 来瞳の無言も、だから好き。

 わからなくてもいい、同じほうを見ててくれるだけでいい──そんなことを思い、でも、裸にならない主義を後ろ盾に、沈黙することで来瞳に偽り続けている自分がとても滑稽こっけいに思える。

 偽りの人生。

 なんてピエロなんだろう。




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Nanase Nio




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