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近頃、兄の様子がおかしい。
変、と言っても過言ではないくらいに、おかしい。

仕事はどうしたのか、と問い詰めたくなるくらい、キムラスカに入り浸っているのは今更だけど。

以前は、鬱陶しいくらいに私に構ってきていた癖に、最近は避けに避けまくられている。

仕事の用件すら、伝えられずに、困っている。

そう、情報部第一小隊の同僚に愚痴を溢したら、

――俺はそこまで避けられないけどさ。一つ、言って良いか?あの人、仕事してんの?


それは、私もそう思うわ。




*****


やっと情報を手に入れた。
私一人の力では無理だったのだけど、同僚たちが助けてくれた。

――兄は何やら、生体レプリカ技術に手を出しているらしい。
(模造品(レプリカ)を作ること自体は、特に咎められないが、生体レプリカは禁じられている。)

――兄は、秘預言(クローズドスコア)を調べているらしい。

――兄の部下たちは、それぞれ、預言に思うところがあるらしい。



此処まで出揃ったところで、私はぷっつりとキれた。

兄は神託の盾騎士団のトップなんて地位にいるせいで、馬鹿なことをしようとしても、止められる人が余りいない。
それどころか、付いて行こうと考える阿呆がいないとは限らない。


――私が止めないと。





私は、キムラスカの首都、バチカルへ向かった。

此処の公爵邸に、兄はいる。

兄が騎士団員に守られず、一人になり、且つ私が失敗しても連帯責任を問われて、兄を止められる可能性のある場所。

それがこの、ファブレ公爵邸だった。


神託の盾騎士団は辞めて来た。
しかし、教団の上層部がこぞって出払っていたので、辞表はまだ、受理されていないかもしれない。
つまり、私はまだ、教団員のままの可能性がある。

教団が兄を庇えば、キムラスカの追求は、教団にも及ぶだろう。
そうなればきっと、教団は兄を切り捨て、保身を図るに違いない。
兄は後ろ楯を失い、私の罪の責任を問われ、処刑されるか、少なくとも根掘り葉掘り調べられて、良からぬ企みも発覚するだろう。

もし、既に受理されていたとしても、私と兄妹であることは変わりないのだから、最悪、取り調べくらいは受けるだろう。

軍服は……、門番が油断してくれるかもしれないと思い、着てきた。

本来、辞表を提出した時点で、返さなければならないのだけれども。
この計画を立て、死を覚悟したのだし、もう一つくらい罪が増えたところで、痛くも痒くもないわ。



油断してくれないなら、眠ってもらうだけ。

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