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チーグルの巣を発ち、小川にルークの機転で即席の橋を架けたり、進路を妨げる草むらをミュウの炎で燃やしたりしながら、奥に進む。
すると、樹の根で出来た洞穴のような場所にライガクイーンがいた。
「うお…でけー…」
ルークが呆然と呟く。
ルークの腕に抱えられていたミュウに、ジェイドが言う。
「では、ミュウ。通訳をお願いします」
「はいですの!」
ミュウがとてとて、とライガクイーンに近付いた。
そのミュウの後ろにいたジェイドが、優雅に腰を折り、口を開く。
「お初お目にかかります、ライガの女王。
本日は、お耳に入れたきことが御座いまして、参りました」
「みゅみゅみゅ、みゅーう、みゅうみゅう。
みゅみゅ、みゅうみゅ、みゅう」
それで本当に通じているのか、聊か不安になるミュウの鳴き声が止み、ライガクイーンがのっそりと立ち上がる。
大きな咆哮。
吹き飛ばされたミュウを、ルークが受け止める。
「ライガクイーンは何と?」
咄嗟に腕で顔を庇い、重心を落としたため、無事だったジェイドが問う。
「卵が孵化するところだから、来るな……と言ってるですの…」
「ライガって、卵で増えんのか!?」
ルークがちょっと的外れなことに驚き、ティアを振り返る。
「えぇ、そうよ。ライガに限らず、大体の魔物は卵生ね。
……それにしても、マズいわね…」
「何が?」
「卵を守る生き物は、凶暴性を増すわ。自分の子を、無事に生まれさせるために。
それに、ライガの仔は人の肉を好むと言ったでしょう?」
こくん、と頷いたルークは、ハッとした。
「人間が来たら、ライガクイーンと仔どもは、確実に殺されちまうってことか!?」
「そうよ。
――後には退けないわね」
それを聞いたルークは、ライガクイーンの前に走り出た。
ティアが呼び止める暇もない。
「ルーク!危険よ!!」
「頼む、ライガクイーン!!
オレ達の話を聞いてくれ!!」
ティアの注意を促す声も無視して、ルークはライガクイーンの目を見上げる。
ルークの隣にまろび出たミュウも、ペコペコと頭を下げながら、ミュウミュウと何やら必死に訴える。
その様子をじっと見詰めていたライガクイーンは、グルルル、と低く唸った。
「ミュッ、はいですの!
ライガクイーンさんが、言ってるですの!
人の子の真剣な様子に免じて、一度だけチャンスをやる、だそうですの」
「チャンス?」
ルークがミュウを見下ろして、首を傾げる。
ライガクイーンが再び何事か唸り、ミュウが通訳する。
「はいですの。
野に生きる者は力ある者に従う、お前たちが我を打ち負かしたなら、我は人の子の話を聞こう、だそうですの」
「そんな…」
その言葉を聞いて、ルークが後込みする。
すると、それまで黙っていたジェイドが、前へ進み出た。
「なるほど、お話は分かりました。
では、私がお相手致しましょう」
「ジェイド…!」
ルークと、成り行きを見守っていたイオンが声をあげる。
「大丈夫ですよ、悪いようにはしません」
にこりと笑ったジェイドは、右腕を一振りして、槍を構えた。
*****
「うわぁ…ジェイドって、槍もスゲェんだな…」
呟くルークの視線は、ライガクイーンを屈伏させたジェイドに釘付けだった。
戦闘で、少しずつ移動する彼らの動きを追っていたルークの背後には、ジェイドが槍術のみで戦ったお陰か、無傷の卵が鎮座していた。
「ティア、ライガクイーンの傷を」
「はい。癒しの力よ、ファーストエイド」
傷の塞がったライガクイーンは、一時離れていた卵を再び抱くように蹲り、唸り声をあげた。
「それて、人の子よ。我に聞いて欲しい話とは何だ、だそうですの」
「あのな、」
ルークが拙いながらも真摯な言葉で、ライガクイーンに今後起こりうる危険を伝え、ミュウがその隣で一生懸命に通訳する。
その声が止み、ライガクイーンがルークに問う。
「して、お前たちは我に何を望むのだ、と言ってますの」
「出来れば、他の森へ移住して欲しい。
……オレは、ライガクイーンに死んで欲しくない」
ミュウミュウ、と伝える声。
その声が上下するのは、ミュウが何度も頭を下げているからだ。
「みゅうぅぅっ、ありがとうございますですの!!
仔が生まれ次第、更に北の奥の森に移動する、だそうですの!」
「ホントかっ!?ありがとう、ライガクイーン!!
…良かった……」
ルークとミュウが揃って、大きく頭を下げる。
その後ろでは、ジェイドとティア、イオンも安堵した顔でお辞儀をした。
*****アトガキ
イオン様テラ空気www
存在は覚えてるんですが、何も喋ってくれないし、動いてくれなかったんですよ。
ティアはそろそろ、先生になると思います。
主役はルークとミュウ。
次こそ、タルタロス。
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[mokuji]
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