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  今この瞬間を永遠に


結婚式は素晴らしいものだった。

参列者は新郎新婦の身内と特に親しい友人、恩師だけというこじんまりとしたものだったが、誰もが笑顔で声を上げて笑い、踊り、肩を叩き合った。

ドレス姿のリリーは素晴らしく綺麗だった。自慢のたっぷりとした長い赤毛は艶やかに流れて純白のドレスに映える。長いヴェールを揺らして笑うリリーの全身から、幸福な空気が溢れていた。

リリーの隣に立つジェームズは嬉しさを爆発させていた。いつも以上にニコニコ笑い、事あるごとに司会の進行を遮り大袈裟な身振り手振りでリリーの自慢をしてはリリーに頭を叩かれていた。
その癖っ毛は相変わらずで、どうにか真っ直ぐにならないかと撫でつけたり櫛で梳かした努力の跡が見られたが、ついに真っ直ぐにはならなかったらしい。あっちこっちに跳ねている黒髪は見慣れたいつものそれで、くしゃくしゃな毛先を撫で付けようとジェームズが奮闘するたび参列者の笑いを誘った。

新郎の付き添い役を務めるシリウスは快活に笑っていて、その場に集まった参列者の誰よりハンサムだった。
学生時代より短く切り揃えられた黒髪はきっちりと整えられていて、正装した姿に良く似合う。深い藍色はシリウスのイメージにぴったりで、今日のために特別に仕立てられたであろうその服装は、シリウスの長い手足をより一層魅力的に引き立てていた。

ライムはカメラを構え何度もシャッターを切った。
今この瞬間の幸せを切り取りたかった。とめどなく溢れて、猶も枯れないこの幸せな時間を、せめて一枚でも多く写真に残しておきたかった。それはこの先におこる悲劇を知っていたからなのか、それともただの衝動だったのか、ライム自身にもわからなかった。

「ライム、カメラマンばかりしていないで、君もリリー達のところへ行っておいでよ」

にこやかに笑いかけるリーマスも、今日ばかりは顔色がいい。慎ましいながらも清潔感のある若草色の正装姿はリーマスの柔和な顔によく似合う。いつも彼の表情に翳りを見せる疲れは微塵も無く、爽やかな笑顔と相まって年齢相応に若く見えた。

「ううん、いいの。今はこうして、みんなの姿を写真に収めておきたくて」
「シリウスの事を気にしているのかい?」
「リーマス」
「シリウスも素直になるべきだけど、君ももう少し、素直になるべきだと僕は思うよ」

リーマスの優しい笑顔に胸が詰まる。戸惑い、両手を胸元で握りしめて、ライムは震える唇を動かした。

「けど……けど私……自信が無いの。もうずっと喋っていないし……本当に嫌われているんじゃないか、って。……嫌な顔、されないかな……?」
「大丈夫。シリウスはそんな男じゃないよ。僕が保証する」

君だって本当はわかっているだろう?と諭すようにリーマスは笑う。その力強い微笑みに、背を押された。

「……うん、そうだね。行ってくる。ありがと、リーマス」
「どう致しまして、ライム。いってらっしゃい」

顔を上げ、ライムはドレスの裾を絡げて駆け出す。踊り、談笑する人の間を縫って、真っ直ぐに友人の元へ。

「リリー!ジェームズ!……シリウスっ!」

参列者に囲まれて談笑している二人とその横に立つシリウスを見つけた瞬間、ライムは堪えきれずに名前を叫んだ。振り返った三人にライムが駆け寄ると、リリーは手に持っていたブーケを隣に立つジェームズに押し付け勢い良くライムを抱きしめた。

「ライム!」
「っ、リリー!」

くしゃりとライムの顔が泣きそうに歪む。その表情を見て、リリーは笑った。

「やっと来たね、カメラマンさん」
「ジェームズ……あの、おめでとう」
「ありがとう、ライム。それにしても、酷い顔だなぁ」
「うっ、うるさいな……!リリーを泣かせたら許さないからね!」
「わかってるって!リリーは絶対幸せにするよ」

いつに無く頼もしい顔でニヤリと笑うジェームズが何だかかっこ良く見えたのが悔しくて、ライムはその背中を思いっきり叩いた。短く上がった悲鳴と抗議の声は綺麗に無視して、ライムは目の前のリリーと向き直る。

「リリー、結婚おめでとう」
「ありがとう、ライム。貴女に祝ってもらえて本当に嬉しいわ。……貴女ってば、変なところで遠慮するんだから。ずっと待っていたのよ?さあ、一緒に写真を撮りましょう!」
「うん。……ほら、シリウスも並ぼう?」
「おっ……おう」

手を引いて、並んで。フラッシュの合間にライムが笑いかけると、シリウスは驚いたように目を見張って────堪えきれずに吹き出した。それだけで、胸に重くのし掛かっていた石が取れたような気がして、ライムは久しぶりに心から笑った。

こぼれ落ちる笑顔。しあわせで、満ち足りていて。幸福を絵に描いたらきっと、こんな形なのだろうとライムは思った。

どうしてしあわせは脆いのだろう。どうしてしあわせは儚いのだろう。


このまま時間が止まればいいのにと、何度も思った。


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