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  じわりと染み入る優しさと


クリスマスが過ぎると、ホグワーツは再び穏やかな沈黙に包まれた。休暇中のメインイベントが終わり、後は年を越せばいつもの日常が戻ってくる。城で休暇を過ごす者たちは皆 思い思いの年末を過ごしていた。
 

リドルが少し遅めの朝食を済ませて大広間を出ると、ここ数日で見慣れた後ろ姿が目に入った。長い髪、漆黒と赤のローブ、リドルより低い身長、心当たりは一人だけ。通る声で名前を呼ぶと、少女はピタリと足を止めて振り返った。
 
「あれ……リドル?」
「やあ。おはよう、ライム」
「おはようリドル。珍しくゆっくりだね」
「たまにはね。ライムこそ、今日は早いじゃないか。そんなに着込んで一体どうしたの?」

見慣れたローブの下には分厚いセーター。マフラーをぐるぐる巻きにして手袋を嵌め、グレーの耳当てまでしている。今日は寒いとは言え、えらく重装備だ。

「雪遊び」
「え?」
「雪遊びするのよ」
「この寒い中?」
「うん」
「……一人でかい?」
「……うーん、……うん。そのつもりだったんだけど、ね」
「だった、って……まさか」

ライムはにっこりと満面の笑みを浮かべた。リドルの背筋にぞわりとしたものが走る。嫌な予感しかしない。

「一人で遊ぶのはちょっとさみしいから、付き合ってくれるよね?私のお喋り友達で、お世話係のリドルくん」


****


「最悪だ」

リドルはその端正な顔を歪めて 唸るように吐き捨てた。

ライムに半ば無理矢理校庭へと連れ出され、雪遊びを始めて数時間。既にライムのローブは冷たく濡れている。リドルはと言えば ローブに防水呪文をかけているらしく、雪に塗れたライムとは対象的に全く濡れていない。けれどもその白い頬は冷気に晒されてうっすらと赤く色付いているし、動き回ったせいか僅かに息が上がっている。顔を歪めたまま不機嫌さを隠しもしない。一方のライムはと言えば生き生きと顔を輝かせ、一人でせっせと雪だるまをつくっている。その様子に呆れて、リドルは深くため息を吐いた。

「……全く、何がそんなに楽しいんだか」
「えー?リドル何か言った?」
「別に何も?」
「嘘吐き。聞こえてるよ」
「……なら聞く必要無いじゃないか」

舌打ち混じりにそうつぶやくと、ライムは声を上げてケラケラと笑った。屈託無く笑うライムは新鮮で、リドルは少し驚いた。

「君も、そんな風に笑えるんだね」
「え、何?改まって。いつも笑っていなかった?」
「……笑っていたよ。けど、何処か強ばっていた」
「……そっか」

ライムは何処かバツの悪そうな顔で苦笑した。

「……で、まだ続けるのかい?」
「もちろん。大丈夫、城内にも生徒はほとんどいないんだし。見ている人なんていないよ」
「君は一体いくつだ」
「十五歳です」
「そういう事じゃあ無い」
「いいじゃない、まだ子どもなんだから」
「十五歳ならもういい歳だろう」
「……子どもだよ。私たちは、まだ。少なくとも、この城にいる内は、護られる対象だから」
「……ならば早く抜け出したいね」

神妙な顔で、リドルは囁く。それは乾いた声だった。

「……そうだね、リドル」

その時にはきっと、貴方は遠くへ行ってしまうのだろうけど。


****


折角連れ出したのにリドルが中々相手をしてくれないものだから、無理矢理遊んで貰おうと雪合戦を仕掛けてみたのだが────これが間違いだった。

名前を呼んで、振り返った所を狙って雪玉を投げたら見事にリドルの顔面にぶつかった。まさか当たるとは思わなかったから、ついその姿を見て笑ってしまって……それがどうやらリドルの闘争心に火を着けてしまったらしく、凄まじい勢いで反撃された。

笑い続けるライムの前で リドルは無言で顔に着いた雪を払うとその場にしゃがみ込んだ。何をするのかと思えば、リドルは雪をひっ掴み荒く固めてそれを次々とライムにぶつけ始めた。途中から固める事すら面倒になったのか、杖を取り出したリドルは直接杖から雪玉を生み出すという反則技を繰り出した。反撃する間も無い怒涛の雪玉でライムはあっという間に雪に埋れ、とどめを刺される前に全力で白旗を上げた。

「ス、トップ!ストップ!ごめんって!」
「もう音を上げるのかい?だらしが無いね」
「リドル絶対怒ってるよね!?もう勘弁してください……」

雪まみれで情けなく眉尻を下げて謝るライムの姿を目にして、リドルはようやく杖を降ろした。溜飲を下げたようだ。良かった と安堵して、ライムは力無くその場に座り込む。負けず嫌いだとは思っていたが、これ程とは。今度からもう少し気を付けようと固く決心する。

しかし杖からぽこぽこ雪玉を飛ばすリドルは何ともシュールだった。

「おっも、い……冷たい……」
「さっきから何を作ろうとしているの?」
「見ての通り、雪だるまよ」
「……それにしては、大きくないかい?」
「……あー……うん、やっぱりリドルもそう思う?転がしてたらどんどん大きくなっちゃって、気付けばこんなサイズに……」
「……だからって限度があるだろう」
「あはは〜。雪がこんなに積もってるのって珍しかったから、つい……」

真っ白な雪玉はライムの膝上程もあって驚く程大きい。それを一人で抱えようとするのは、幾らなんでも無茶じゃないのかとリドルは呆れた。

「リドルも頭乗せるの手伝ってよ」
「嫌だ。魔法を使えばいいじゃないか。浮遊呪文は習っただろう」
「あ、そっか」

失念してたー あはは、と誤魔化すように笑いながらライムはポケットから取り出した杖を振るう。巨大な雪玉と一緒にあたりの雪もふわりと舞い上がって、空気を孕んで散らばる。光を反射してキラキラと輝く雪は美しかった。

「綺麗だね、リドル」
「……そうだね」
「あー、楽しかった!今日は付き合ってくれてありがとうね」
「どう致しまして。出来れば二度と経験したく無いものだね」
「楽しいのに……」
「ところで、ライム。課題は全て終わったの?」
「え?あー……うん、大体は」
「大体?」
「……九割は終わったよ」
「つまりはまだ、一割残っているんだね?」
「……そうとも言うね」

引きつった笑みで答えると、リドルは数秒思案するように黙り込んだ。嫌な予感にライムの顔が一層引きつる。

「付き合ったついでだ。その課題、今日中に終わらせよう」
「えぇぇー……!?今日中?今日はもういいよ…」
「今日は思う存分遊んだだろう?なら次は勉強する時間だよ」
「明日でもいいじゃない……」
「そうやって引き延ばしたって、後で苦しむだけだと思うけど?それに 休暇はもうじき終わるだろう」
「……そっか、もうじき終わるんだね」

確認するようにつぶやく。
休暇が終わる。生徒達と一緒に、元の生活が戻って来る。そうなればきっと今のように頻繁にリドルと会ったり勉強したりする事は無くなるのだろう。ただ前の暮らしに戻るだけ。

なのに少しだけ、それをさみしいと思ってしまうのは何故だろう。

「着替えて食事を取ったら必要の部屋に来る事」
「図書館じゃあないの?」
「閉館までに終わりそうなのかい?」
「必要の部屋でお願いします」

二人が雪を綺麗にはたき落として玄関ホールへ入ると、城の中は驚く程あたたかかった。ひとまず着替えを済ませる為に別れ、 ライムは疲れの蓄積で重くなった足を引きずってグリフィンドール寮への階段を登り始めた。


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