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  まきこまれてゆく


結論から言えば、寮はグリフィンドールになった。
当然といえば当然だ。今までずっとグリフィンドールだったのだから。途中で変更されても困る。


大広間での組み分けが終わってからは大騒ぎだった。
珍しい編入生。それも、滅多にいない東洋人ということで、グリフィンドール生は大盛り上がり。ここにジェームズやシリウス達はいないが、何時の時代もグリフィンドールはお祭り騒ぎが好きなのだろう。歓迎してもらえるのは素直に嬉しかった。

談話室に移動してからも歓迎会と称したどんちゃん騒ぎは続き、ライムは質問攻めにされ、部屋へ移動する時にはすっかりクタクタだった。
それでも何とか重い身体を引きずりながら階段を上がり、教えられた部屋のドアを開けると窓際に荷物が積み上げられていた。当面必要なものは用意してある、と言っていたから、これがそうなのだろう。しもべ妖精が運んでくれたのだろうか?何にせよ、有り難い。

広い部屋にぽつんと置かれた一つのベッド。どうやら人数の関係上 一人部屋らしい。一人になれるのが嬉しい反面、これでは仲の良い友人を作るのに時間が掛かりそうだな、とも思う。
ふらふらと近寄って、そのまま吸い込まれるようにしてベッドへ倒れこむとぼすんと音を立てて身体が跳ねた。ああ、落ち着く。いつものベッドの感触だ。ここが数十年前だなんて未だに信じられない。でも、実際に目にしたホグワーツの生徒や教師達は皆、ライムの知らない顔ばかりだった。

どうして過去に来てしまったのだろう。繰り返し浮かぶ疑問の答えは未だ見つからない。
異世界トリップがあるのだから、タイムスリップがあってもおかしくは無いのかもしれないけれど…。

――目が覚めたら、元通りになっていないかな……

そんな淡い期待を胸に抱きつつ目蓋を下ろすと、ゆっくりと意識は闇に落ちていった。


****


コツ、コツ、コツ。
窓ガラスを叩く小さな音で、ライムは目を覚ました。
ぼんやりした意識のまま目を開けると、見慣れた深紅の天蓋が見える。目線を横に向ければ、カーテンの隙間から漏れる光が眩しく 薄暗い部屋を照らしているのが目に入った。ガランとした部屋。ベッドはひとつ。ならばこれは、昨日の続き。ここはまだ過去だ。

ため息を吐いて枕元にある時計を手繰り寄せて見ると、針は7時を指していた。予定より少し早いが、もう起きてしまおう。

コツコツと、小さな音は止まない。一体何の音だろうかと部屋中を見回してみるが、特に何もない。
おかしいな、と思い立ち上がり耳をすませると音は窓の方から聞こえてきた。ゆっくりと歩み寄り、目を凝らして見ると、小さな封筒を咥えたふくろうがコツコツと窓ガラスを叩いているのが見えた。

「手紙……?誰からだろ」

手紙を咥えているなんて珍しい。大抵のふくろうは手紙を足に括り付けられているものだが…。差し出し人はダンブルドアかディペット校長だろうか。この時代にライムの知り合いなんてほとんど居ないのだ。手紙をくれる相手なんて、それくらいしか思い浮かばない。

建て付けの悪い窓を開けるとふくろうは勢い良くライムのてのひらに飛び込んできた。

『おはよう、ライム。
朝早くからごめんね。今日は休みだけれど、良かったら校内を案内するよ。9時に大広間で会おう。
トム・リドル』

「……なんと」

びっくりした。びっくりしすぎて、思考が追いつかない。

リドルが、案内?
そういえば…そんなことを言っていたような気もする……昨日はそれどころでは無くてあんまり聞いていなかったけど。いや、それはまだいい。いいとしよう。問題は、場所だ。よりにもよって、大広間。何が悲しくてあんな人目が多いところで、リドルと待ち合わせをしなくてはならないのか。編入2日目だよ?友達も居ない状況で、そんなことしていいの?取り巻きとかいるんじゃないの?目を付けられるの?
――正直、嫌です。

が、悲しいかな、私は日本人。NOと言えない日本人。断るのも気が引ける。

ならばせめて手紙で断ろう、と思ったが、ここには自分のふくろうが居ない。それに気付いた時には既に手紙を届けてくれたふくろうは姿を消していて、どうにもならなかった。

「……先が思いやられる」

心無しかドッと疲れた気がする。このまま再びベッドに倒れこみたい、と思ったがそんなこと出来るはずも無く。ライムはずるずると重い身体を引きずって身支度を始めるのだった。


****


「おはよう、ライム。よく眠れたかい?」
「お、おはよう、リドル。……まぁまぁ、かな……」

心の準備が出来ていないまま、大広間に入った途端リドルに話し掛けられそのまま自然な流れで相席する事になった。何と言う早業。
近くのテーブルからチラチラと興味深げな視線が向けられる。

周りの目線が!こわい!

「食事はまだだろう?遠慮せず食べるといい」
「あ、うん……ありがとう。いただきます」

綺麗な笑顔で差し出されたお皿を受け取り、ぎこちない動作で朝食を取り分ける。隣にリドルが座っているだけで緊張する。
食欲が無い…いつもより控えめにしよう…。
黙々とサラダを口に運びながら、ライムはこれからどうすべきか、静かに考えるのだった。

「あの……リドル、案内のことなんだけど……」
「うん、何だい?」
「折角の休みなのに付き合わせるなんて悪いわ。図書館とか教室の場所を教えてくれれば、それで平気よ?」
「遠慮しているのかい?僕は君がここでの生活に慣れるまで面倒を見るよう言付かっているからね。気兼ねせず、わからない事は何でも聞いて欲しい」
「あ、ありがとう。……けど、リドル、私達寮が違うし……わざわざ時間を取らせるのも、やっぱり悪いわ。あまり貴方に頼り過ぎるのも良くないんじゃないかしら……?」
「ああ、そんな事を気にしていたの?確かに別行動を取る事が多いけれど、出来る限りで手助けはするし、何かあったら手紙で連絡してくれればいいよ。言っただろう?気兼ねしなくていい、って」

勝 て な い。

当たり障り無く断ろうにも上手く言いくるめられてしまう……。これ以上拒んでも逆に不自然かもしれない。もう何が自然なのかわからない。

……仕方が無い、ここは素直にお願いしておこう。最初だけ頼って、後は徐々に距離を置けばなんとかなるだろう。リドルだって今は校長に頼まれた手前親切にしているだけで、興味が無くなれば深追いはしてこないはずだ。
ならばそれまで、不審な点を見せずに乗り切ればいい。

そう決心して、ライムはリドルに案内を頼むのだった。


(親切な顔の裏にある本心を見るのが、ただひたすらに恐かった)


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