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温度のない手のひら

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「綺麗な手だね」
日没を少し過ぎ空に夜が滲む頃 特にやる事も無く、かと言って勉強をする気にもなれずぼんやりと頬杖をついて窓の外を眺めていた貴女の背にリドルがそう声をかけた。やけに熱のこもった声で その視線は貴女の指先に注がれていた。
「何?突然」
訝しむ貴女の問いには答えずにリドルはするりと貴女の手の甲を撫でた。その指は紙のように白くすべらかで作り物のようだった。
「生きている者の手だ」
そう言って口の端で小さく笑ったリドルの声に温度は無くて、貴女は思わずその指を握った。
当たり前に毎日一緒にいると忘れそうになるけれど、この人は人ではない。時間が経っても変わらない、記憶。触れ合うことは出来ても真に交わることは無く、違う時間を生きているのだと思い知らされて。
「どうして泣いているの」
「わからない」
「同情しているのかい?」
「…ちがう」
違う、ちがうのだ。けれど気持ちはぐちゃぐちゃで、どうして泣いているのか自分でもよくわからない。
変な子だね、と言って貴女の頭を撫でる手付きは優しくて やはりリドルは人形みたいに美しく 涙はしばらく止まらなかった。

(リドル/温度のない手のひら)

 

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