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似た者同士

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────だから、嫌だったんだ。
こんな表情を見るくらいなら、とっとと離れてしまえば良かった。離れるべきだった。
情が移るなどあり得ないと高を括っていた事は認めよう。面白いと思った事も。我が強く、頑固で誠実で自分の意思を中々曲げない。そんなところが存外好ましいと感じた事も、否定は出来ない。
けれどこんな表情をさせる為に傍に置いた訳では無い。いつだってへらへら笑って、生意気な口をきいていたのに、どうして最後までそれを貫き通せないのか。当たり前だが武人には程遠い。────そうか、この娘はただの娘だったな、と今更ながらに思い出す。普段の態度があまりに堂々としていて、戦にも臆さないものだからすっかり失念していた。
「何て酷い顔だろうね」
「だっ、誰のせいだと、思ってるんですか…っ!」
威勢の良さだけは変わらない。涙声と今にも泣きそうな顔はいつもと違うけれど、やはりこの娘は見ていて飽きない。嫌いではないな、と素直に思う。
笑った拍子に咳き込み上体を曲げると、慌てたように背を摩ってくる。娘の姿をちらと横目で見れば、噛み締めた唇が僅かに震えていた。
「無理をしないでください」
死にますよ、と言う娘の顔は普段通りを装おうとして失敗したのか、奇妙に歪んでいた。
「死なないさ」
笑みの合間に吐き出す吐息は熱い。
「まだ、死ねない」
やるべき事が残っている。先の事は勿論考慮に入れて準備を進めて来たけれど、まだ、襷は渡せない。砂時計の砂は残り少ないけれど、最後の一粒が落ちるまでは僕の時間だ。
「だから君にも、まだ働いてもらうよ」
娘は不安を押し隠して不敵に笑う。初めて会った時などは、自分とは全くの正反対な娘だと思ったものだが、案外似た者同士なのかもしれなかった。


(半兵衛/BSR/似た者同士)


   

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