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ミルク色の休息

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帰宅して靴を乱雑に脱いだ勢いのまま自室に駆け込む。眠気と疲労が全身を包み、足はやけに重い。肩に食い込む荷物は適当に放り出して、お気に入りの椅子に倒れ込むように座ると、もう一歩も動けなかった。ひやりと冷たい机に突っ伏して、緩く長く息を吐くと、部屋は再び静まり返った。そのまましばらくじっとしていると、控え目なノックと共に背後のドアが空いた。
「お疲れ様です」
穏やかな声と共に、近くでかちゃんと小さく食器が触れ合う音がした。そっと顔を上げてみると、すぐ傍に置かれた白磁のティーカップが目に入った。
「良かったら、どうぞ。ただのホットミルクですが、あたたまりますよ」
声がする方を見るとそこに立っていたのはやはりレギュラスで、いつもよりラフな格好をして目元を緩ませて微笑んでいた。真っ暗だった部屋はレギュラスの点けた間接照明のおかげで眩しくない程度に明るく、何だか不思議と安心した。
「ね、はちみつ入れてもいい?ちょっと多めに」
ティーカップの隣に置かれた小さなポットを見てそう尋ねると、レギュラスはしょうがないな、という顔で笑って頷いた。
「いいですよ。ちゃんと歯磨きはしてくださいね」
「もちろん」
とろりと黄金色のはちみつが白いミルクに溶けてゆく。銀色のティースプーンでくるくるかき混ぜると、辺りにミルクとはちみつの甘い香りが広がった。
カップを持ち上げるとそれは思ったより熱く、熱は冷え切った指先にじんと沁みた。ゆっくりと一口飲んでから、溜まっていた疲れを吐き出すようにほっと息を吐いた。
「おいしい」
「良かった。少し、落ち着きましたか?」
「うん。ありがとう、レギュ。それにしても珍しいね、ホットミルクなんて」
「紅茶だと、良く眠れなくなってしまうでしょう?」
ただでさえ、最近は夜更かし気味なんですからと小言めいた事を言うレギュラスに苦笑を返して、私は残りのミルクを飲み干した。
「お風呂も湯を張ってあります。入浴剤はラベンダーにしておきましたからね。落ち着いたらゆっくり浸かって、今夜は良く眠ってください」
その手際の良さに、すっかり主夫だな と思ったけれどそれは口にしない。
レギュラスは気が利く。育ちの良いお坊ちゃんのはずなのにこうした細々としたところまで目がいくし、相手の喜ぶ事を察するのが上手い。それは彼が幼い頃から周囲を注意深く観察して、相手の理想の姿になろうと無意識に自分を律していたせいなのかもしれない。
「ありがとう、レギュラス」
レギュラスはあまり自分のことを話さない。だから私も無理には聞かない。今はただ、こうして一緒にいられるだけでいい。
「どういたしまして」
ゆっくりと、近付いていけたらいい。


(レギュラス/ミルク色の休息)


 

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